一見奇麗な曲線(素材)

一見奇麗な曲線(素材)

前回は、縫製によって婦人服と紳士服がどのように異なるのかという点について書きました。婦人服では目指す曲線を出すためには、凡そ縫目を入れる事で解決する傾向が強いというのが、その最大の違いです。

しかし、このシルエットを奇麗に出す手法について、もう一つ、紳士服と婦人服では非常に大きく異なる点があります。それは素材です。紳士服のスーツやジャケットに使われる素材よりも、婦人服に使用される素材の方が選択肢が広いんです。

繊維

布は縦横に走っている糸でできています。ですから、布は基本的にはどの方向にも延びる特性を持っています。ガーゼを想像してみてください。ガーゼは非常に粗い縦横の糸が格子状になっています。引っ張ればどんな方向にでも延びたり曲がったりしますから、けがの手当てをするときに重宝します。しかし同じ布であるにも関わらず、ジーンズは引っ張ってもなかなか伸びません。

つまり布は基本的には伸びますが、目の粗い弱い生地ほどよく伸びます。

ゆがんだ繊維

この目の粗く弱い生地を、丸みを帯びた球体の物に添わせるのは非常に簡単です。ガーゼでためせば直ぐにお分かり戴けると思いますが、左の図のように繊維がゆがんで球体に添うようになります。このような生地を使えば、切目(縫目)を何処にいれる事も無く、曲線のシルエットを奇麗に出す事ができます。

このような生地は婦人服で非常によく使われます。目の粗い生地は、薄く軽いので、着心地も良いものが多いです。繊維素材も絹や麻を使えば、肌触りも良く見栄えも良くなります。しかし困った事に、これでは直ぐに破れてしまう!。紳士服のジャケットやスーツは仕事で使われる事が最も多いです。営業などで外回りをしていたら、このような生地では1ヶ月と持たずにボロボロになってしまいます。ですから、この様な生地は婦人服では使えても、紳士服のジャケットやスーツには全く使えません。

このような生地を使えば、安く・軽く・非常に奇麗なジャケットやスーツができますが、同時に全く持ちません。矛盾しているようですが、弱い素材(当然安価です)を使えばシルエットは奇麗になるんです。値段が安いにもかかわらず、奇麗なシルエットを保つ服があれば、それはこのような素材を使っている可能性があるかもしれませんね。

2002-2004頃