段々と重くなる生地
メーカーの表示
以前にも書きましたけれど、生地の品質は「密度(目付)/繊維の長さ/繊維の細さ」で決まります。一般に繊維の細さについては Super表記が使われています。本来は繊維の長さも推測させる表記でしたが、今では繊維の長さと Super表記はあまり関連しなくなりました。
そうなると、品質の表示で問題になってくるのが「密度(目付)」です。これは一般に単位量あたりの重さで間接的に表現しています。「Super表記が大きい(繊維が細い) + 重い = 密度が高い」となる理屈です。この重さ、実は殆どのメーカーが公開しています。
Zegna の目付と構成
品名 | 目付 g | 価格 |
---|---|---|
15 milmil 15 | 250 | ¥210,000 |
Trofeo | 290 | ¥120,750 |
Heritage | 290 | ¥94,500 |
Traveller μicro | 310 | ¥94,500 |
Electa | 340 | ¥94,500 |
Traveller | 310 | ¥89,250 |
例えば Zegna です。代表的な銘柄と目付、価格はこのようになっています。今更ですが、Zegna社の準備商品は適切だと思います。(価格は新柄のものです)
15 milmil 15 は Zegna社の最高級品です。Super表記はありませんが、かなり繊維は細いものになっています。繊維が細く目付が重ければ、当然高価になります。15 milmil 15 は目付が250gですので、それでも強さはありません。これは完全にいわゆる高級品/豪奢品の範疇に入ります。
Trofeo は 15 milmil 15 よりも目付けがありますが、価格は6割程度になります。つまり、15 milmil 15 よりも糸が太い事になります。豪奢性と実用性のうち、15 milmil 15 よりも実用性を持たせたものと言えます。ただ 290g ですので、高級品的な色合いが強くなります。
以下、Heritage, Traveller μ, Electa と重くなりますが、価格は同じです。つまり、糸を太くしているという事になります。また、目付が良ければ、当然丈夫になります。実際 Electa/Traveller はビジネス・スーツに向く柄が多く、ファッション性よりも実用性重視になっています。
Super 表記と目付
右下の表は、今年の新柄生地価格の一部です。各メーカーには無数の商品がありますが、各メーカのうち、目についたものを取り出してみました。
品名 | super | 目付 g | 価格 |
---|---|---|---|
William Laycock | 90 | 315 | ¥33,600 |
Canonico | 120 | 280 | ¥33,600 |
Tallia Di Delfino | 110 | 315 | ¥37,800 |
Garlanda | 110 | 420 | ¥37,800 |
Arthur Harrison | 90 | 375 | ¥40,320 |
William Halstead | 90 | 350 | ¥50,400 |
Difabio | 100 | 350 | ¥50,400 |
Cerruti | 110 | 300 | ¥60,480 |
Tallia Di Delfino | 120 | 290 | ¥60,480 |
Guabello | 110 | 400 | ¥60,480 |
Loro Piana | 120 | 260 | ¥67,200 |
E Thomas | 130 | 320 | ¥77,280 |
Dormeuil 'Optima' | 120 | 340 | ¥93,000 |
Dunhill | 120 | 360 | ¥117,000 |
以前、Super表記は運用が余りに杜撰に過ぎ、既に品質を表す指標では無くなりつつあると書きました。実際、Zegnaは当てにならない Super 表記を止めてしまい、目付だけの公表になっています。
価格は糸質・希少性・ブランド名称・デザインなどによる人気で大きく変わるため、このような羅列には意味が無いのですが、Super表記と価格にあまり関係がないのが見て取れると思います。
ところで、この価格帯の中間部分(¥50,000〜¥60,000)は、メーカーにとって最も流量が期待できる部分です。そのため品質のバランスが良くなります。その部分のSuper表記と目付が平均110前後、350前後であるというのは面白いと思います。
私自身の経験上でも、一概には言えませんが、秋冬で実用性と着心地のバランスがとれた生地は、Super表記で110/目付で350ですから、若干軽い傾向があるものの、これらの価格は正直だと思います。
Zegna vs ?、最近の傾向
世界的に見ても、最近ではZegna社の一人勝ち状態です。そこで各メーカもかなり工夫を始めています。例えば、高級品の部類に入る 英 Dormeuil 'Optima'や'Amadeus' はかなり良い生地です。色柄も洗練されており、品質もかなり良いと言えます。一時期、ドーメル社は商品名を変えはしたものの、大手量販店に生地をおろしたため、日本では随分と評価を下げてしまいました。徐々に復活しているような気がします。
Zegna社の最近の傾向は、全体として、ファッション性の強化にあるようです。例えば Cashco は カシミアと綿の混合素材ですが(Cashmere+Cotton)、今年からカシミアの構成割合が増え、価格もm単位で1万円近く高価になっていますが、ファッション性を重視しています。Travellerも同様で、繊維を細く、エレガントさを増したものが増えています。
他方、Zegnaに対抗する種々のメーカは、全体として繊維は細く、かつ目付を増やして耐久度を増し、全体的に実直な品質の向上を目指す方向にあります。今年の新柄では英国/イタリアを問わず、全体に目付が300を下回るものは殆どない状態になっています。また、目付が400を超えるものも多くあります。重くて、色柄も英国調の生地が随分と多くなっているようです。
メーカーの方も、今年は洗練したアメリカン・トラディショナル、英国調やカントリー調、実直で耐久性を重視した動きに添っているようです。