糸の善し悪し
生地と糸
生地のよしあしを決定するのは、基本的には糸の使い方ですが、そもそもその前提となっている「糸そのものの品質」も、生地の品質を左右します。
品質と毛足の長さ
生地の品質を決める大きな要素に、毛足の長さも関わってきます。Super100's表記は原毛1kgで100kmの糸が引けるという意味ですが、何処を探したってそんなに長い羊毛や山羊毛などあるわけがありません。一本一本の短い毛を繋いで一本の糸にするわけです。
毛足の長い短いは主に生地の強弱に関わります。
毛足が短いと、毛と毛を繋ぐ段階で接合部分(↑)が沢山できます。この接合部分が多ければ多いほど弱くなります。繋ぎ目がある以上、そこで解けたり折れるからですね。
逆に、毛足が長ければ、このように同じ糸の長さを出すのに当たって接合部分は減ってゆきます。毛足の長さを倍にすれば接合部分は半分以下になりました。
もし十分に長ければ、この接合部分同士を絡める事ができます。接合部分が上記二つに比べて長くなっています。こうすればもっと強くなるでしょう。更にに2本3本と長い毛足の毛同士を絡めていけば、もっともっと強くなっていきます。
上から順番に毛足は長くなっていますが、一番下の方法をとると、最も長い毛足のものを使っているにもかかわらず、出来上がる糸の長さは上の二つと同じです。しかも一番下のものは毛が何本も重なることになりますから、当然重く、太くなってしまいます。これを細く、軽くするには細くて長い毛足が必要になります。
Super表記は原毛1kgで x km の糸を引いたとする表記です。これは本来であれば、この様な毛の細さと長い毛足も表す、つまり「品質」を表す表記だったんです。長くて細い毛足でなければ「強くした上」「なお軽い」糸はできません。しかし、低価格を何としても行わなければならないため、短かい毛を無理矢理に繋ぐこともしばしばあります。短かくて細い毛足を使えば「弱いが」「とにかく軽い」糸ができます。この短い毛足から作られた糸も、長い毛足から作られた糸も、原毛の重ささえ同じなら同じSuper表記になります。
服飾で大きな力を持っているイタリアの業界は、この現状をさすがに危惧するようになってきているようです。Super表記を再定義して運用し直そうとする動きもあるようですね。
十中八九、中国を意識してのことでしょう・・・
Super120's は本当に細い?
もっともこのSuper表記にも問題があります。
ある程度の高級品になると、大体Super100'sとか120'sと書いてあります。これは原毛1Kgで100Km糸を引けるならSuper100's、原毛1Kgで120Km引けるならSuper120'sという意味です。他方、デニールという単位もあります。繊維の太さ=繊度を表す単位で、長さ450mで重さ0.05g のものを1デニール。同じ長さで重さが倍( 0.1g )ならば 2 デニールと呼びます。糸はそもそも細いので、絶対的な細さを計ろうとすると十数ミクロンにしかなりませんから、こういう表記の仕方になります。
単位 | 定義 | 1km | 1kg |
---|---|---|---|
Super100's | 1kgで100km | 10g | 100km |
1デニール | 450mで0.05g | 0.11g | 9000km |
Superは糸の重さからどれくらいの長さになるかという点に着目するもので、デニールは糸の長さが何グラムの重さになるかという点に着目します。
従って、この二つの単位は糸の絶対的な細さを表しません。相対的な細さを表します。またこの表を見ていただければわかりますが、Super表記よりもデニール表記の方が厳密です。しかしメーカーはSuper表記を使います。
この様に、単位の意味は定まっているのですが、「その単位表記の運用が適正に行われているか」という点でははなはだ疑問点が大きいのです。一般的に使われるデニール単位ではなく、Super単位の表記はその隠れ蓑じゃないかと思えます。Super規格はJIS規格や国際規格ではありませんから、その運用は完全にメーカー任せ。本来なら同じ表記のSuperであれば、絶対的な繊維の太さの幅は数ミクロンの筈なのですが・・・
A社1
A社2
A社3
B社1
B社2
B社3
図で書くとこのような、かなり大きなメーカーごとのばらつきがあります。会社が異なれば同じSuper表記でも太さはかなり違うことがあります。それどころか、同じ会社の同じSuperの生地でも太さがかなり違うことがあります。
国内産生地の場合、このようなバラツキは殆どありません。同じSuperの表記で有れば、大体同じ肌触り、風合いの生地が出来てきます。しかし海外の場合、かなりこのバラツキの幅が間違いなくかなり大きい。
これは「本当にSuper120'sなのか?」と思われる生地が時折出回ります。特価品ともなると「特価品用の独自Super規格があるのか?」と思わせるヒドイ生地もあります。恐らく原価を抑えるために、規格の運用幅を広くしているのでしょう。日本のブランドよりも「海外の有名ブランドにこの好い加減さは多い」んです。
SuperXXXという表記は話半分くらいに聞いておいて、手触りと風合いを御自分で確かめて買われる方が安全かもしれませんね。一体何度だまされた事か・・・。私はもはやSuper表記よりも自分の感覚を重視しています。
・・・洋服業界が食品業界でなくて幸いです。