カシミアのスーツはない?
カシミアの弱点
カシミアのジャケットはあっても、カシミアのスーツは滅多にありません。あっても大変に高価です。これにはカシミア素材特有の理由があります。
端的に行ってしまえば、カシミアはどうしても弱いのです。
なぜカシミアは弱いのか
カシミア山羊は高地・寒冷地に住んでいますから、その肌は産毛でびっしりと覆われています。そしてその上に剛毛が生えており、雪やゴミ、日光から身を守っています。厳しい土地に住んでいますから、この剛毛は非常に硬い。剛毛を使えば長い毛が取れるので簡単に丈夫な糸が作れますが、非常に硬く、重くなってしまいます。ですから剛毛は使えず、使えるのは産毛だけと言うことになります。
産毛を使えば、軽く、細いですが、かなり弱くなってしまいます。また産毛は短いですから、これを繋ぐことによる糸の脆弱性も問題になります(糸の善し悪し)。産毛を使った糸は柔らかくて手触りも良いですが、いきおい弱くなります。ジャケットとしての使用には耐えますが、スラックスとしての使用には耐えません。そのためカシミアのスーツは滅多に存在しないわけです。
しかしカシミアは必然的に弱いのですが、これを強くする方法はあります。極端な厳寒地で育った山羊を使えば良いわけです。寒ければ寒いほど、産毛は高密に長くなっていきます。しかし、厳寒地は本来生息には向きませんから、多頭飼育は不可能です。また人間が生活するにも向きません。毛を採集するのも大変困難で、そもそも希少な毛という事になります。従ってその値段は・・・、ちょっと覚悟がいります。このような厳寒地の長いカシミア山羊の毛を使った生地は、現在120万ほどしています。
ところで、ウール(羊毛)はもともと毛足が長いですから、丈夫でスーツに向きます。このウールをカシミアの様な柔らかさ、軽さにできれば理想的です。しかし羊は主にオーストラリアで飼育されているため、今度はカシミヤとは逆に、太陽と乾燥で羊毛の品質が劣化したり、剛毛となったりします。また羊は群れで行動しますから、その毛に糞がついてしまうこともあります。
ですから、羊に服を着せてしまいます。こうすれば羊毛は傷つけられることはありません。また太陽光線や糞が付きませんから、いきおいその毛は柔らかく、比較的細く、高品質のものとなります。この様に育てられた羊は、まさに「箱入り羊」。ウールの高級品です。御幸毛織が現在生産しています。