ダブルのモーニングカット

モーニングカット

図1

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図2

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まずはモーニング・カットが何であるかにつきまして。英語で正式になんというのかは分かりませんが、ズボンの裾を作る方法にモーニングカットというものがあります。礼服であるモーニング、それに合わせるコールズボンの裾をこのように作るため、"モーニング" カットと呼ばれたのだと思います。

モーニングは準正装である上に、極めてシンプルでディティールもありません。そのため、徹頭徹尾「曲線の連続した繋がり」を重視します。通常のズボン裾では、ちょっとした所作で靴にズボンの裾があたり、上向きの力がかかります (図1)。その結果、矢印の部分にシワがたまります。そこで最初から靴の曲面に沿った作りにします (図2)。そうすれば靴に当たらず美麗です。

図3

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モーニング・カットの作りは基本的には図3の理屈です。2cmほどの勾配をつけた紙を斜めに折ります。ただ、これでは斜めになっただけで曲線になりませんし、そもそも紙が合いません。そこで、赤矢印の方向に延ばし、青矢印の方向に縮めて縫縮(イセ)込み、あれこれして奇麗な曲線を作ります。

見た目も美麗、後の修理も利く、悪いところが何もありません。そのため、モーニングではなくても、特にご指定がない限り、全ての手縫いズボンはモーニング・カットにしています。本当は手縫い以外でも手は入れているのですが、手縫いほどには奇麗に出ないところがあります。

全てのズボンをモーニング・カットに、は不可能

見た目も美麗、修理も利きやすい、なのになぜ全てのズボンがモーニング・カットにはなっていないのか、大きな理由の一つは縫縮込みという手法のせいです。既製服では販売現場でその都度、裾上げをします。販売現場でテーラーの裾の作りを毎回するというのは非現実的です。

また、結構手間がかかるので、窮して勾配量1cmというものもあったりします。1cmだとモーニング・カット風(?)という感じで無意味です。無意味ですから行わなくなっていきます。ということで消えてしまいます。

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その他、モーニング・カットには、専ら縫縮込みに頼るのではなく、縫い目を入れるという方法もあります。これは更に美麗に出るという利点があるものの、丈を出すことができません。結果、仮縫い必須になるため、益々テーラー以外では不可能です。ただ、この方法は手間や技術とは別の理由から、テーラーであっても原則として扱わないお店が多いかもしれません。当店でも例外としています。

"モーニング" カットなのにダブルで

このモーニング・カット、通常はシングルで用います。理由は単純で、モーニングが礼服であるためです。ズボンの裾は、礼服ではシングルに決まっています。ダブルはカントリーです (ズボン裾が汚れるのを避けて折り曲げなければならない状況 = 野外活動用)。"モーニング" カットですから、そもそもが礼服用、シングルでしか使いません。

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となってくると、ダブルでモーニング・カットにしたらどうなるのか、となります。別にしても良いじゃないか!、奇麗であるし、ということで、ダブルのモーニング・カットです。かつても珍しく今ではなおさら珍しい方法です。

ダブルはシングルより余分に折り返ります。この時に操作する縦幅はおおむね4cm、途中で天地が入れ替わります。また、密度が低い割に繊維量が多い生地、例えばフラノなどには向くのですが、最近の柔らかく薄いスーツ地では専ら縫縮込みに頼るというのも難しくなります。

丁度、お客様にそのような生地でご注文を頂きました。方法を色々考えましたものの、布の性質に鑑みて、敢えて縫い目を入れる古い方法を使いました。大きいサイズの写真

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とても満足です。きっと、現状、他では滅多に見かけないような気がします。例外的なダブルのモーニング・カットでした。

2011.9.9