メジャーで測る ≠ 採寸
たかが採寸、されど採寸
新年最初の更新、…かつ久方ぶりの更新です。何を更新したものか、さっぱり分からなくなりました。そこで、色々とご質問を頂くこともありますので、初心に帰って採寸について書いてみたいと思います。(採寸から順繰りに納品まで書いて行けば、当分更新のネタには困らないという下心を隠しつつ、何が初心かという心の声は無視です)。
実際のところ、一口に採寸とは言うものの、メジャーでサイズを測るだけでもないところがミソで、なおかつ勘違いの起きやすいところです。他の服飾業界の方(特に専業デザイナーさん)から協業依頼を受けることがあるのですが、大抵は最初の最初、採寸の段階でつまずきます。やむを得ないとは思うのですが、必要とする採寸が貰えることはまずありません。
最も基本的な採寸 (=三元+尻囲)
ISO-3635
a. chest girth : The maximum horizontal girth measured during normal breathing with the subject standing erect and the tape-measure passed over the shoulder blades (scapulae), under the armpits (axillae), and across the chest.
b. waist girth : The girth of the natural waist-line between the top of the hip bones (iliac crests) and the lower ribs, measured with the subject breathing normally and standing erect with the abdomen relaxed.
c. hip girth : The horizontal girth measured round the buttocks at the level of maximum circumference.
採寸箇所の例
補足:割出寸法
割出寸法とは計算式と体型で求めた寸法です。胸囲/胴囲の差寸でまず体型を求め、その体型ごとに、胸囲*x%+yという形で他の寸法を算出していきます。計算方法はメーカー各社ともに違っていて、各社の研究の賜物です。
オーダーの場合、ほとんど割出を行いませんので、三元表示のみで服を作ることは不可能です。
ちなみに、イージー・オーダーでも既製服的な割出寸法を使うのですが、割出寸法に対する補整個所が無数にあります。誰が採寸しても同じような印象がありますが、裁断技術者が行う場合と、量販店営業者が採寸を行う場合、イージーオーダーでさえ出来あがる服が全然違ってきたりもします。
まずは大抵の方が知っているサイズの三元(身長,胸囲,胴囲)+尻囲です。まさに測るだけ、どんな既製服屋さんや修理屋さんでも測ってくれます。人によって誤差がない…わけがなく、測る人によってかなり違います。一応、規格による定義はあり、JIS L 4004が引用するISO 3635-1981 に規定されています。右が原文、その下の図はISO/JISの採寸個所です。
定義の混乱、用法の違い、採寸それ自体の難しさ
- 場所
- 胸囲 : 脇下の直下と肩甲骨を結んだところ。
- 胴囲 : 腰骨の先と一番下の肋骨の間、おヘソのところ
- 尻囲 : お尻の最も大きくなっているところ
- ポイント
- 平行に測ること
- メジャーが落ちない程度にゆるく
JISの採寸定義は明確です。但し、この採寸定義、他のサイズを計算で割り出すための採寸で、テーラーのものとは異なります。例えば胸囲。紳士服の三元胸囲はChest/チェストで、上の測定個所です。しかし、オーダーの胸囲では婦人服で言うところのBust/バストを測ります。胸板の最も厚い部分、だいたい脇下2-3cm下になります。しかも、ChestだろうとBustだろうと、日本語では胸囲です。
もう、この段階で混乱が起きている上に、胸囲は測りにくくもあります。採寸法では「腕を下ろして直立、リラックスした状態」とありますが、この状態で「メジャーが落ちない程度にゆるくして」正確に測るのは結構慣れが必要で、その結果、大抵は不正確です。
採寸者の心理的バイアス
実は、三元の採寸で最も問題であるのは心理的バイアスです。実現したいデザインや過去の採寸の記憶、過去に気に入っていた服の記憶がある場合に顕著です。もっと細いはず、もっと太いほうが良いという先入観が採寸に反映されてしまいます。
裁断や縫製を行わない方 (専業デザイナー,営業者 etc) が採寸する場合、実現したいデザインや提案したいデザインを「採寸レベル」で行ってしまおうとする欲求が働きます。また採寸に自信がない場合、「自分はそんなサイズじゃない」と反論されると、簡単に「出てきて欲しいサイズ = 実寸」になってしまいます。
実寸に主観的なバイアスが加わり、狂っていればそもそも服になりません。「こんなサイズの人間いてたまるかっ」とか「服にならんっ」との叫びが咽の奥から込み上げること、間々あります。
確かにテーラーも採寸時、採寸帳に実寸を書かないことも多いのですが、これは採寸しながら頭の中で裁断も行っているためです。実寸そのものは正確に測っていて、もう制作に入っているためなのですが、多分、これも勘違いされやすいところかもしれません。
採寸は確かに曖昧なのだけれども
服は基本的に曖昧な感覚で出来ていますし、布製品ですから、多少の誤差は問題になりません。誤差の範疇に収まっていて、理屈が一本通っていればあまり問題なく、見当をつけて補整もできてしまいます。ただ、採寸それ自体にデザインを組み入れたり、心理的な影響が出てくるととても厄介です。
何といいますか、デザインと基礎構造は別物で、それが混じると難しい。その切り分けは裁断の知識が前提になります。そこが「採寸は少なくとも裁断士が行ったほうが良い」と言われる所以になります。
次回も採寸絡みです。本来想定したところに到達する前に、結構な分量になってしまいました。リハビリも兼ねてということで、今回はここまででご容赦下さい。
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