その前に意図を 2
Answer / Jacket
Jacket B
Jacket A
前回の解答になります。少し順番が相前後しますが、まずはジャケットから。クイズは、このジャケットにある「標準と強く離れたところ」について、でした。
- JacketB1. それはどこでしょう。
- JacketB2. 「デザイン/縫製」のいずれに由来するか
jacket B1. Aの部分です。あまりに細すぎてボタンが掛けられません。通常日本では「紳士服ではない」と呼ばれる可能性が高いほどに細くなっています。
jacket B2. これは意図的なもので、デザイン上の「好み」です。縫製の質は悪くはありません。但しBの部分、襟の返りが甘すぎて、第二ボタンを超えています。これはあまり好ましくありません。他方、Xの部分、腰の部分で、まるでパイプのように美しくカーブする湾曲は美麗です。
次はこのジャケットです。このジャケットに関するクイズは、
- Jacket1. これは「オーダー/既製」か
- Jacket2. 縫製の質は「良い/悪い」か、又その理由。
Jacket A1、これは「オーダー」です。胸にはボリュームもあり、特にXの腕の流れは美麗です。現実世界にはこのように美しい湾曲ある腕の持ち主はおりませんが、これは意図的なものでしょう。
Jacket A2、Bに強い引き攣れ、Aにパッカリング(puckering)が出ています。これは通常、非常に不適切です。但し、この服が上のように「腰回りの美麗な湾曲/細身」を意図した場合、敢えてパッカリングに目をつむった可能性があります。
湾曲の強調とパッカリングは交換不可能、あるいは困難な関係になるため、下の表のようになります。日本では赤い選択を、イタリア服は緑の選択を打つようです。現在、日本では、非構築的でありながら、いかにパッカリングを防ぎつつ湾曲を強調するかが工夫の眼目になっていると思います。
非構築的 | パッカリングに目をつむり、湾曲重視 | パッカリングが出る限界の湾曲に留める |
---|---|---|
構築的 | パッカリングを殺すための手を打つ |
Answer / Pants
このズボンについては、なかなか難しいものがあります。かなり特殊なズボンであるためです。
- Pants 1. 履き心地は「良い/悪い」か
- Pants 2. 年齢は「若く/高齢に」見えるか
Pants 1、履き心地は悪いと言わざるを得ません。第一に座れません。このズボンには全く余裕がなく、座った場合には生地に全て下向きの力が掛かります。つまりベルトラインを押し下げる現象が起きます。体に合わせるという意味では奇麗にあっていますが、「立ち居」以外のことを殆ど考えていませんので、「その意図」でない限りは問題です。
Pants 2、次の問題、むしろこれが最大の問題ですが、このズボンは「高齢者向け」ないし、「高齢者としての印象」を生みます。その理由は端的です。
右と左、どちらが若い方の臀部でしょう。左です。若い方は筋肉の衰えがありませんので、大きくなります。
他方、加齢すると筋肉が落ちますので、臀部は「平板に」なります。よく映画などで老農夫の吊りズボンが映ることがありますが、あれと丁度、同じ印象です。体型に対する見栄え考慮がありません。
一般的には、日本でこのズボンが受け入れられることはまず無いでしょう。これを称賛するには、一つの大きな前提があります。「完全に体型ラインをなぞること」を最優先の意図とし、「機能と体型考慮は無視する」という前提です。
言い換えれば「ラインをなぞる」ことを実現するため「野暮」「座れない」という不都合を覚悟するズボンです。こういう目的をもつズボンは、日本ではまず存在しません。しかし、こういうズボンこそ、オーダーならではとも言えないこともありません。書籍では「究極のズボン」とありますが、確かに「一つの意思を貫徹している」という意味では究極です。
全ての評価の前に「意図」が
上記の服、全てに共通するのは「意図の存在」です。その意図を汲まなければ、その適切な評価は下せず、細部だけを見て善し悪しを決めても意味がないように思います。「細部の評価が正しく」とも、服は文化/楽しみの側面が非常に強いですから、総体的に間違うことになります。上記の服はそれぞれの意図において「良い」服だと思います。
全ての仕立服には「意図」があり、その意図の実現について「技術/デザインレベル」の問題があるわけです。結論は次回で御容赦下さい。今回、目にした本のインパクトが強かったもので、想像以上に長くなってしまいました。
写真の引用元: 集英社「ナポリ仕立て—奇跡のスーツ」Amazon
“クラシコ・イタリアの源流にして世界最高峰のスーツ「ナポリ仕立て」の全貌を著した、真の洒落者たちの密かなるバイブル。コミック「王様の仕立て屋~サルト・フィニート」の原点がここに! ”