恰幅の良い方ならではの服
東京で百貨店・専門店巡りをしたところ
最近では、流通という面に限れば、地方都市と東京ではほとんど差が無くなってきてしまいました。東京へ行った折、百貨店や専門店巡りを楽しみにしているのですけれども、年々、地方都市と似たような品揃えになっています。
例えば恰幅の良い体型、いわゆるO体の方の服です。一般的なO体の既製服は、単に大きいだけで、見栄えや着心地というものは完全に無視されています。東京という世界有数の消費地へ行っても、既製服でのO体は単に大きいだけでした。東京に無ければ地方にもないような気がしますし、もしそうなら、既製服ではO体の方はいつも見栄えの悪い服を着るということになってしまいます。
しかも、裁断知識のないイージ・オーダー専門店が増えたためか、イージ・オーダーですら、恰幅の良い体型の方に合わなくなりつつあるようです。恰幅の良い体型の方が抱える問題を、少し構造的な所から書いてみます。
イージ・オーダーでも腕が出ない
恰幅の良い方と標準体の方で、最も異なる点が、肩幅と胸囲の相対的な大きさです。
標準体(1)の方の場合、肩幅と胸囲では、相対的に肩幅の方が大きくなります。その結果、自然と袖付けは下向きになります。こうであれば普通に腕は前に出ます。
恰幅の良い体型では、相対的に胸囲の方が広くなります。そのまま腕をつければ、腕は真横に出るようになります。構造的にはシャツや着物と同じです。こうなると、腕は前に出ません。
前に出ないだけでなく、シャツのようなシワが出ます。シャツの袖は横についていますから、この腕をおろせば、脇の所にシワが出ますね。これと同じ理屈です。
もし裁断知識が曖昧なまま、採寸だけを取ってイージ・オーダーに回すとこのような不都合がよく出ます。腕が前に出ず、変な所にシワが出ます。そのため補正が必要になります。イージ・オーダーだからといって、体型に合うとは限りません。採寸以外に裁断の知識がどうしても必要になってきます。
なぜか「ぶかぶか」に
上記は腕の問題ですが、恰幅の良い方はサイズにまつわる問題も多くなります。
標準体(1)の場合、相対的に胸囲よりも肩幅の方が広くなりますので、上辺の方が長い台形が基本的な形になります。最も大きくなるのが肩幅となります。そのため、「既製服は肩幅で合わせる」という指南が存在するのかもしれません(これは間違っておりますけれども)。
これに対して、恰幅の良い体型(2)の場合、上辺の方が短い台形が基本的な形になります。最も大きくなるのは腹部です。しかし、これを基本形とする場合には、要求される技術が高くなりますので、既製服などでは存在していません。
そのため、上辺と下辺が同じ長さの長方形のような形で作ってしまいます。結果として、最も大きくなる腹部に合わせて既製服を購入すると、必ず肩幅が余ります。赤くなる部分が余る部分です。
結果として、上半身に布がたまるようになり、見栄えもしませんが、着心地も悪くなります。
裾が平行にならない
1.
2.
あと、問題が生じやすいとすれば、裾です。裾が平行にならず前に向かって突き出すようになります。標準(1)ではまっすぐ平行に、恰幅の良い体型(2)では裾が前に向かって突き出るというわけです。
これは余り見栄えがしません。お腹を突き出しているような印象になってしまいます。一般的に、テーラー等は腰ポケットなどを工夫して、平行に戻すといったことをするのですが、既製服や裁断知識がないまま採寸のみの送ってしまうイージ・オーダーなどでは補正されず、このような裾が顕著です。
恰幅の良い方ならではの服は「体に合う服」
恰幅良い体型の方は、体に合っている服を着るだけで、どっしりとして落ち着いた信頼感が出て、ただそれだけで見栄えがします。「千代の富士」のスーツ姿、良いですよね。その他に「寺尾」さんの着ている服もなかなか良いです。西欧では日本以上に恰幅の良い方が多いです。シラク大統領も、ヨーロッパ特有の、悪く言えば「よれっ」とした服を着ていますが、なかなか悪くありません。
他に恰幅の良い体型ですばらしい服を身に着けている方と言えば、北朝鮮の金正日氏がいますね。政治的なことはさておき、その身につけている服は、かなり見事と言えます。金正日氏はスーツを身に着けず、作業着のような服ばかり身につけています。服の構造や素材上は何処から見ても作業着なのですが、服のサイズが体に完全に合っているため「作業着に見えません」。もし金正日氏が同じデザインの既製服を着た場合、間違いなく作業着に見えます。政治家にすら見えないかもしれません。
本来、恰幅が良い体型というのは珍しい体型ではなく、特に欧州では、一定程度の年齢となった方は、極めて恰幅が良くなります。イタリア人なども顕著です。それでもよく肥えた陽気なおじさんの格好イイことといったらありません。体格に合った服を身につけるだけで、相当に見栄えがします。
イージ・オーダー専門店や既製服店は、多分、随分と損をしています。単に大きいぶかぶかの服をお勧めしても楽しくありませんし、ファッションから楽しさを減らしても、何も面白くないと思うのですけれど、どうなのでしょう。