既製服はなぜ体に合わないか

服はバランスで出来ている

14_01.png

既製服というのは、相当合理的な発想でサイズを決定しています。人間の体は具体的なサイズが異なるだけで、同じ体型であれば体の大きい人も小さい人も、その体の各部位の比率はほとんど変わりません。AさんとBさんで胸囲のサイズが異なっても、体型が同じであれば胸囲:腰囲:着丈等の比率は同じです。逆に言えば、このような「比率の違いが体型の違い」といえますね。ですから、服飾雑誌でしばしば目にする「〜は何cmでなければならない」というのにはほとんど根拠がありません。全く同じ体型でも体が大きくなれば、個々のサイズは当然、大きくなる訳ですから。

14_02.gif

そもそも服は既製服にしろ、オーダーにしろ、最初から比率の発想で作られています。これはテーラーの商売道具の一つ、角差(かくざし)です。直角に曲がった1m半程の定規なのですが、最初から 1/6, 1/12, 1/24 などの分数表記が入っています。つまり個々の具体的な採寸が決まれば、後は比率に従って、他のサイズを決定していくのが一般的手法だという事ですね。

ですから、一見、既製服であっても、各体型を揃え、個々のサイズを揃えれば、体に合いそうなものです。しかし、それでも既製服では本質的に体には合いません。合うわけがないのです。例えば下記の表は、某既製服メーカーの少し古いサイズ表です。本来のものを加工して、更に相当に減らしてありますが、本当はもっと多いです。

ちなみに既製服のサイズは「胸囲」を基準としていますので、胸囲から探されると見つけやすいと思います。これは一部ですから、もしなければ、全サイズ表を。これでもなければこの製造メーカのものは何処を探してもないということです。もし原型の表がご覧になりたい場合は原型のサイズ表がこちらに。

- Y A AM AB B O



















92 171 75 73 169 78 72 167 81 71 165 84 70 163 88 69 - - -
94 173 77 74 171 80 73 169 83 72 167 86 71 165 90 70 163 94 69
96 175 79 75 173 82 74 171 85 73 169 88 72 167 92 71 165 96 70
98 177 81 76 175 84 75 173 87 74 171 90 73 169 94 72 167 98 71
100 179 83 77 177 86 76 175 89 75 173 92 74 171 96 73 169 100 72
102 179 85 77 179 88 77 177 91 76 175 94 75 173 98 74 171 102 73
104 179 87 77 179 90 77 179 93 77 177 96 76 175 100 75 173 104 74

ぴったりのもの、ございましたでしょうか。私の経験上、既製服のサイズ表にぴったりはまる方は全体の50%位しか見えません。半分の50%は製造段階で切り捨てられています。私はこの中に同じサイズのものがありますから、幸運な50%です。ただこのサイズ表、典型的な日本人を想定していますから、もしイタリアの既製服であれば「数字が全然違います」。この比較は次回に持ち越しということで。

三元表示

量販店の場合、一般に、身長・胸囲(バスト)・胴囲(ウェスト)だけの表記があります。この表記法はJIS規格に定められ、三元表示と呼ばれます。本来、身長ではなく着丈のはずなのですが、着丈x2+25で身長が導きだせるため、わかりやすい身長を表記しているのでしょう。上の大きな図は製造メーカーのものですが、今度は某流通のサイズ表記です。

当然ですが、さらに減ります。この流通企業の表は多い方です。例えば各サイズに生地が3種、デザイン2種、それぞれ20着仕入れたと考えてみてください。20 x 3 x 2 x 20 = 2400 着の在庫です。一着3万円のスーツで、7200万の在庫!。ですから、普通、これだけ用意することはあり得ないので、見事に似たような服が延々と並ぶわけです。

Y A AB BB













90 165 74 70 165 78 70 - - - - - -
92 170 76 72.5 170 80 72.5 - - - - - -
94 175 78 75 175 82 75 165 84 70 - - -
96 180 80 77.5 180 84 77.5 170 86 72.5 - - -
98 185 82 80 185 86 80 175 88 75 165 92 70
100 - - - - - - 180 90 77.5 170 94 72.5
102 - - - - - - 185 92 80 175 96 75
104 - - - - - - - - - 180 98 77.5
106 - - - - - - - - - 185 100 80

私は胸囲96cm, 胴囲82cm、身長173cm、着丈74cmです。別に珍しい体型ではありません。中肉中背です。ただ、小さければ入りませんから、このサイズがすべて入る大きめのものを探さなければなりません。すると、Y体では胸囲で2cm大きくなり、着丈では3.5cmも大きい。A体のものを見ると、着丈で3.5cm大きく、ウェストで2cm大きい。この二つはちょうど一回り大きくなりますから、ひどくだらしない格好になりますね。

AB体ではウェストで6cmも大きいですから、お腹のところがぶかぶかです。O体は問題外。私はこの量販店では見事に切り捨てられた体型ということになりますね。結局、私のサイズにぴったりの服は、ない、ということです。

ここで買うにしても、安い服ならまだ我慢のしようがあるというものです。しかし3〜4万以上だと納得いかないものを感じます。また高級プレタポルテの場合、もっと準備されるサイズが少ないです。サイズが合わなければ「この服はあなたに似合いません」と言われたりします。ちょっとサイズからずれるだけで、安くても高くても、手に入れることすらできないというわけです。

三元表示の限界

この三元表示による二つのサイズ表、量が少ないから体に合わないようにも見えます。しかし、実は体に合わない理由は、単純な「サイズの不足」ではありません。この個々のサイズを導く「比率」の求め方にそもそも問題があります。

既製服の場合、基本となる比率は、全て胸囲(バスト)が基準となっています。胸囲 x 何% として、肩幅、胴囲、ヒップ、着丈、身長(着丈x2+25)という具合です。しかし、この方法では体にあうサイズが出てくるわけがありません。

その理由は、端的にいえば、胸囲が大きくなれば、必ず着丈が長くなるからです。上の流通での表では、同じA体で胸囲が2cm長くなるごとに、身長で5cm、着丈は2.5cm長くなります。これは見事に大雑把です。人の体がいかに比率でできているとはいうものの、胸囲の増加とともに着丈が必ず伸びるなどということはありません。

他にも「右袖丈」と「左袖丈」の長さが考慮されていません。右手と左手の長さが同じ人というのは、ほとんどいません。両手を前にやって比べると、だいたい1cm〜2cm違う方がほとんどです。これも三元表示では考慮されていません。

そのため、既製服は本質的に体に合わないわけです。世の中の50%の方は製造段階で切り捨てられ、流通段階で更に、また何%か切り捨てられ、結局、殆どの方が妥協で選ばされている結果になってしまっているわけですね。

2004.5.23