着物と背広はどう違う?

着物と背広はどう違う?

着物は言うまでも無く日本伝統の服です。背広は洋服ですから西欧伝来の服です。着物も紳士服も同じ服ですが、様々な面で違います。素材も違いますし、着物には無数の柄がありますが、紳士服の場合には着物ほどの多様性はありません。しかし、何といってもその最大の違いは、一言で言えば曲線の扱い方です。

上

人間の体は一つとして直線の部分がありません。肩といわず、腕といわず、筋肉などの付き方によって色々と異なっていますが、全て曲線でできています。これは丁度、左の図の様な問題です。丸いものに平面である布地を、どうすれば『シワにならず』に覆う事ができるのか。これが紳士服、背広の最も構造上の醍醐味です。高松宮賞(日本一の仕立屋を決める賞です)を取った職人さんでも、サビルローの職人さんでも、全てこの問題を解決すべく技を磨いているといっても過言ではありません。

小袖

これに対して、着物の世界ではこの問題をそれほど重視していません。右の図は小袖の簡略図ですが、見ての通り、人間の体の曲線部分を考慮した所が殆どありません。よく時代劇などで着物が衣紋掛けにかかっています。衣紋掛けにかけられた着物は、非常にまっすぐ流れていて、一幅の絵画のようです。しかし、紳士服の世界ではこれは大変『良くない』。人間の体は曲線でできているのですから『吊るされている状態が最もシワになって』醜くなければならないんです。

Jacket

ちなみに左の図はジャケットの簡略図です。人間の体が丸いという事を前提に作っていますから、どうしても曲線だらけになります。そして、人間の体は衣紋掛けのように両手を真横にする事はありませんから、両手を下ろした姿が基本の構造となります。むしろ衣紋掛けにかけた場合、あちこちが引き攣れ、お世辞にも奇麗なシルエットになるとは言えません。

このように、着物と背広には基本的な構造の違いがあります。しかし、丸いものを平面に添わせるのは、どう考えても矛盾しています。この解決には色々な方法があり、それぞれの職人の技があります。しかし、これを説明しようとすると、専門的すぎる上に画像に表現するのはなかなか困難です。ぼちぼちと書いていく事にして、今回はこれでご勘弁願いたく思います。

2002-2004頃