少し特殊な仕様のご注文
テーラーは非常に臆病な生き物
今回は少し短い更新です。少し変わっていたり、強調するお洋服を上手く注文できないという方は多く見えると思います。
それを上手に聞き出してこそオーダーメードなのですが、どうしても初めての方でしたり、お付き合いの浅い方の場合、「程度」が分からずに臆病になってしまいます。多分、多くのテーラーや仕立屋が同じだと思います。私の住む市にも、まだ10店の同業者があり、尊敬する大先輩も同じことを悩んでいたりします。
テーラーは基本的にとても臆病です。何しろ1mで2-3万円もする生地を日常的に扱います。下手に鋏を入れてしまったり、縫ったりしてしまうと、もう元に戻りません。特に「小さ過ぎる」場合は致命的です。「できる限り小さく」とありましたら、限界ぎりぎりまで小さくするのが眼目ですが、小さすぎて着用できなければ、ただのゴミになってしまいます。
もしかすると小さすぎて着心地が犠牲になり、短期間しか着てもらえないかもしれないとも思ってしまいます。縫い代を犠牲にすると、修理できなくなり長く着用できないという問題も出てきます。
或はあまりにデザインが前衛的過ぎて(以前、ボタンが互い違いになるデザインのご注文を受けたことがありました)、極めて短期間の着用に過ぎなくなるのではないかという心配もしてしまいます。決して安価ではありませんから、習慣的/反射的にそのような懸念が思い浮かんでしまいます。
既製服の場合、一度は羽織って購入されるわけですから、余り問題が起きませんが、オーダーメードの場合、お客様は羽織ることさえ出来ません。仮縫い時で修正できる場合もありますが、仮縫いは基本的にフィッティングです。サイズの微調整や力の掛かり方を専ら見ています。根本的な変更はできません。
床屋さんや美容院さんでしたら、切りながら会話で確認も出来ると思うのですが、服の仕立ての場合、作りながら確認を頂くということもできません。
余計なお節介の誹りは免れませんものの、そういう懸念や怖さがいつも付いて回るため、テーラーはとても臆病です。どうしても「現在の流行」や、頭の中にある「理想的な服の印象」に引きずられ、冒険的なデザインの指示を頂いても、その程度について緩和する傾向を持っています。
何を犠牲にしても良いか
そのため、「肩幅を思い切って広く」や「肩パッドの量を思い切って多く」、或は「腰の絞りを徹底的に細く」などの個性的で後戻りできない仕様の場合、テーラーはとても迷ったり、怖がったりします。
「〜をcmで」というご注文はとても有り難いのですが、これだけですと、実際に〜cmであっても、全体の印象は、多くの場合に注文意図とずれることになりがちです。これは一筆書きを想像してもらえると分かりよいと思います。曲がりくねった曲線の一部分だけが具体的にXcmとあっても、続きの曲線と奇麗に繋がるかどうかは別問題になってきます。
そのため、これに加えて写真などで「印象」を伝えてもらえると、とても助かります。その「印象」を取っ掛かりに、具体的な話が安全になりやすくなります。
また、例えば「思い切り趣味的な服」など目的や、「3年ほど着用できれば良い」などの着用期間、「〜へ着ていきたい」などのTPOが決まっておりましたら、更に巧くご注文できると思います。
上記は勿論、どんなご注文でもお伺いする事柄なのですが、個性的であればあるほど、資料が沢山ある方が各テーラーは安心すると思います。若いテーラーであれば、過去のデザイン変遷の情報が少ないため、更に怖く思うことと思います (私自身がそうでした)。
まとめ
まとめますと、当店に限らず、少し特殊な仕様のご注文を巧く出す方法は、
- 過去に存在する場合にはその写真
- 手持ちのお洋服で近いもの
- TPO
- 着用期間
- 着用目的
なるべく、これらを事前に明確にして頂くと伝わりやすいように思います。お近くのテーラーは、きっとご期待に応えると思います。