初めての注文

初めての注文

二ヶ月ほども更新が滞ってしまい、文章の書き方が分からなくなってしまいました。今回はリハビリも兼ねまして、最近の思うところを。

東京へ行く際には、出来る限り新宿伊勢丹を覗くようにしています。往時の勢いはないと言われているものの、それでも流石に百貨店、通常の小売店や量販店とは異なる別天地です。何か「特別なもの」を探している気分が満喫できます。

ぶらぶらとウィンドゥショッピングを楽しみました。服の各部分、左右前身頃、左右後身頃、左右の袖などに全て異なった生地を使った服がありました。昔々に流行したもので、私も作ったことがあります。当時はあまり好きではなかったのですが、目にしたものは良いセンスの生地組み合わせです。…作ってみたくなりました。ただ、この手の服は、悩み始めると切りがありませんので、作るだけの気分的余裕があるかどうかが問題です。

更にぶらついていたところ、少し面白いことを思いつきました。伊勢丹でキトンやブリオーニの受注会があるとのこと。いっそ仕立てて見ようかと。

価格は例によってかなり強烈です。種々の理由により同業者に馬鹿にされること必定ですが、それでも作ってみたくなりました。採寸も仮縫もイタリアから見えるそうです。とても面白そうです。

採寸の段階から楽しめます。多分、採寸帳には実寸を書き込まないでしょうから、どういう補正を行うのか興味津々です。補正寸法を書き込まないならがっかりですが、それはそれで収穫です。

仮縫も楽しみです。仮縫には癖が出ますし、何処を重視しているのかも分かります。第一、自分自身が仮縫を受けるのは、実は今まで一度きりしかありません。余りに久しぶりのことですから、考えるだけでわくわくします。

見て楽しめますし、お客様にお見せすることも出来ます。自分で着用だってできます。自分で修理も出来ます。それに、何と言ってもバラしてしまえます。ファンの方には冒涜といっても良い行為ではありますが、仕立屋の世界てぇのは「切る、伸ばす、殺す」なんて物騒な言葉飛び交う世界です。良いのです。家人や職人と首を寄せ合って、かなり楽しんでしまえそうです。

大体、仕立屋は外面を見たり、触ったりすれば、大まかな特徴は掴めてしまえます。何処が工夫されているのかも大体分かります。ただ「具体的にどういう工夫が為されているのか」は外見だけでは分かりません。第一、テーラーは型紙の線を引いているところも隠してしまいます。かつては子弟関係でも教えるなんてことは殆どありませんでした。秘密の秘密です。こっそり盗んでしまうほかはありません。

いっそのこと、1cm四方のマイクロチェックで作ってしまうという手も。そうすれば、非常に正確に服の特徴が…、いやしかし、私にはマイクロチェックが似合いません。そうすると、着る楽しみが。しかし、「分かる」という楽しみも捨てがたく。…うーん、どうしたものでしょう。これは、かなり悩みどころです。

キトンやブリオーニ、ベルベストの服は何度も実物を見たこともありますし、修理もしたことがあるのですけれど、考えれば考えるほど、やっぱり、やっぱり欲しくなってしまいました。気がつけば本卦還りが近づいています。考えてみれば、今の今まで完全に消費者の立場で他のテーラーに服を作ってもらうということはしたことがありません。やっぱり少々動機が不純ではありますが、今回はかなり買い物の気分です。

フル・オーダーでお仕立てしたお客様の一人に嬉しい報告を貰ったことがあります。イタリアで服を買っていた際、現地のイタリアの方に「それは良いクラシコだが、どこのサルトで作った服だ?」と訊ねられたそうです。お客様曰く、「ジャパニーズ・テーラー!」。自信を深め、超一流テーラーに突撃です。…やっぱり動機が不純のような。

ということで、首尾よく注文することができましたら、またご報告してみたいと思います。

W様に教えて頂きましたところ、仮縫いがないそうです…。あるいは仮縫いがある場合、更に価格が強烈になるようで、想像を超えてしまいました。今回は残念ながら見合わせにします。

2006.11.18