仕立屋で服を作る方法
0. ご来店または出張
どうやって、テーラーで服を注文すれば良いのかという質問を頂きました。テーラーで仕立てる場合、手順は以下の様になるのが一般的です。むろん当店でも同様です。
テーラーで注文する場合、お客様の指定する場所に出張する形が多いです。ただ出張の場合は費用がかかりますので、金額や着数によっては来店をお願いする事もあります。当店の場合、出張半分、来店頂くのが半分というところでしょうか。
1. 生地選び
生地を選んでいただく方法はいろいろございますが、一般的には生地そのものやサンプルを直接ご覧いただく場合がほとんどです。生地やサンプルを直接触っていただければ安心頂けますし、出来上がりの感覚がよくわかります。実際に生地をご覧いただくことも多いですが、右図のようなサンプルで生地をお選び頂くことも多いです。欧州ではサンプルのみというが主流です。
限られた商品棚に、どのような生地を揃えるかにもテーラーの個性があります。ですから、仕入れた生地を、誇りを持ってコレクションと呼ぶところもあります。私自身もかつて「宝の山」とお客様に仰って頂いたことがあり、大変うれしかったことを覚えています。
2. デザイン決定
オーダー、イージオーダを問わず、実験的なデザイン以外はおよそ何でも可能です。もちろん、テーラーから「こうした方がいいですよ」とお勧めもします。
デザインの指定で悩まれるお客様がみえますが、服飾用語やデザイン用語、ファッション用語を知って見えるお客様はかえって少ないです。「最近はやりの細い感じで」とか、「芸能人の着ている〜の様な」、あるいは雑誌などの切り抜きを持って見える方も多いです。ちょうど、女性が理髪店で髪を整えるときと似ています。
基本的に紳士服のデザインは、1,形状(ボタン数、シングル/ダブル)、2,シルエット(肩幅:絞り位置:胸囲:臀部の比率)、3,Vゾーン(襟形状・深さ・ラペル形状・ゴージ位置)、4,各種ディティールの組み合わせにすぎません。しかしこれら「だけ」でも、組み合わせが無数にありますから、その中でも特徴的なものに「クラシコ」などという名前を付しているだけです。
ですから、あまり難解な服飾用語に惑わされず、好みの「バランス」をお伝え頂けると、テーラーに伝わりやすいはずです。雑誌などの切り抜きを持ってきて頂けると、もっともお客様の意図が伝わりやすいです。
3. 縫製方法決定
フル・オーダーは「手縫い」、これに対してイージ・オーダーは「機械縫製」です。ただ機械縫製といっても、全部機械縫製〜一部手縫いまであります。この機械縫製と手縫いを交えたイージ・オーダーを、イタリアではス・ミズーラと呼びます。ちなみに、su misura = on measure という意味ですから、もともとはメジャーで測ってオーダーする方法全般をさす言葉です。
フル・オーダーの場合、当店で工賃8万〜10万前後、イージ・オーダーの場合では工賃3万円から7万円前後になる事が多いです。これに生地価格や、その他価格を付け足していくと全額になります。この全額のことを「仕立上り価格」と表記するテーラーが多いです。
4. 採寸
採寸はイージー・オーダーでもフル・オーダーでも、同じくお客様の体の実寸を測らせて頂きます。これに、デザイン上のずれを加味します。例えばジャケットでは、右図(5)が最もデザインを左右するサイズです。いわゆる上着ウェストで、だいたい三つボタンジャケットなら二つ目のボタン位置、二つボタンジャケットなら二つ目をさします。
- 着丈(総丈)
- 肩幅
- 右袖丈
- 左袖丈
- ウェスト半身
5. 仮縫い(再仮縫い)
フルオーダーの場合と、イージ・オーダーの一部では、お客様の体を使って補正を行います。この補正を仮縫いと言います。採寸したとしても、1mm単位のずれや、体型からくるシワなどがどうしても出ます。それを取り除いていく作業です。
ディティールやデザイン上の意思の齟齬がないかも確認し、これらの後、縫製に入ります。また、特に高価な生地の場合、再度仮縫いを行うことがあります。
ただ、これらは「仮」縫いですから、注文を頂いた生地を使う必要がありません。代用の紙や、他の生地を使って仮縫いを行うことも、ままあります。
6. 縫製〜仕上げ
縫製に入りますと、だいたい3〜4週間となります。注文の集中する時期である3〜5月、10月〜12月に遅くなる事もあります。これはどこのテーラーでも同じはずですから、これらの時期の場合、1週間は余裕を見て頂けると、間違いがありません。
7. 納品〜お支払い
オーダーでは生地も高価ですし、手間もかかります。そのため、本来であれば出来上がり後に頂くべきなのですが、生地の指定時に半金をお支払い頂くことが多いです。お支払い方法はカード、現金、小切手が多いようです。当店の場合、カード、現金、銀行振込で承っております。