オーダー・スーツを身に付ける意味は…

オーダー・スーツなんかイラナイ?

オーダー・スーツなんて単なる贅沢、安い服で良い。何年も長もちする服なんて要らない。流行は直ぐかわるから。他に欲しい物もあるし携帯もある。スーツは仕事着だ。最近の職場はカジュアルで済んでしまう傾向にある。だからオーダーはいらない。

最近良く聞く言葉です。私がテーラーだからかも知れませんが、たいそうツマラナイ考え方だと思います。なぜって「良いものが楽しめない」と言う事ですから。

良いものを楽しむには、実は努力が必要です。努力せずに手に入る楽しみは、実はその程度のものなのです。努力と言うのとは少し違うかも知れません。「楽しもうとする」心構えと言った方が良いかも知れません。

大変おいしい御馳走を食べるとします。御馳走を食べる時には、少なくとも直前には何も食べない方が、更に御馳走はおいしくなります。一緒に食べる人が少しだけ他人を気づかって、行儀の悪い事をしなければ更においしく頂けます。うまい酒をさらにうまく飲もうと思うなら、その前に腹にはものを入れぬものです。楽しもうと思わずに単に「消費」するだけなら、別に「良いもの」なんてこれっぱかしも要りません。

おそらく、お茶の楽しみも同じ事でしょう。いろいろと作法のうるさい世界のようですが、お茶自身を極限まで楽しもうとする、その究極の姿が茶道ではないでしょうか。一期一会と僅かな時間に一生を凝縮して、もてなす方は、全身全霊をかけて、もてなす楽しみを味わい、もてなして貰う方は、全身全霊をかけて、もてなされる楽しみを味わう。だから袱紗の裁き方一つ、お湯の加減一つも疎かにせず、美しい茶碗を愛で、お互いの仕草一つまでも楽しもうとする。その楽しもうとする姿勢の極限の姿であるような気がします。

お茶では極端ですが、コメディー映画を見る時に、「笑わせてもらおう」と心掛けて見るのと、「どうせ笑わせるつもりなんだな」と見るのでは、全然違ってくる様に、楽しむにはそれなりの心がけや、一種の努力のような物が必要だと思うのです。

服も同じです。服をどうせ着るのなら、もっと楽しんでも良いと思うのです。オーダースーツの楽しみは少し他の服に比べて確かに高価ですが、少なくとも何万着を工場で作って、1着5,000円という、そういう服よりは遥かに奥が深く楽しめる世界だと、少なくとも私は自負しています。

Private Styling !

一人一人の楽しみのお手伝いをさせて下さい。

2002 04/01