基本的な生地の用語

生地はそれでも今ひとつ分かりにくい

各地各国、古今東西、非常に多様な生地の織り方がありますし、流通過程で名前をつける必要上、非常に多様な名称があります。織りの名称、色柄の名称、加工の名称に、糸の名称などが混じっています。

いつか耳にした説明にこのようなものがありました。「この羅紗は最高のウーステッドカシミア、縮絨が奇麗でしょう?、起毛はアザミです」。他にも「本来ツィードはウールンが主流ですが、これはウーステッド。〜はネップだが今ではドニゴールと同じように云々」…難解です。何だか無駄に難解な気すらします。ということで、今回は基本的な生地の用語につきまして。

生地の織り - 三原組織

平織り

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綾織り

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繻子織り

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生地の織り方には大きく三種類あり、平織り/綾織り(斜文織り)/繻子織りです。この三つの組み合わせで全ての織りが作られるので、この3種をまとめて「三原組織」と呼びます。

スーツに使う平織りの代表格はマットウース(mat worsted)やトロピカル(tropical, 通称トロ)、ポーラ(poral)です。マットウースを光に透かすと、縦横が網戸のように奇麗に並んでいるのが分かります。平織りは夏服に多くなります。ちなみに平織りを45度傾けて切ったものを正バイアスと言います。

マットウース, mat worsted / 光に透かすと

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綾織りは最も一般的なスーツ地になることが多く、サージ(serge)やギャバジン(gabardine)、シャークスキン(shark skin)、サクソニー(saxony)が代表的です。サクソニーは表面が起毛しているので分かりにくいですが、綾織りは45度程度、斜めに走っているのが分かると思います。

サージ(serge) | ギャバジン(gabardine)

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シャークスキン(shark skin) | サクソニー(saxony)

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繻子織りの代表格はドスキン(doeskin)です。礼服の定番生地で、繻子織りそれ自体が光沢を持ちやすくなるという傾向があります。殆どのウールスーツ地は上記生地の中のどれかか、又はその派生/バリエーションです。

生地はとても分かりにくく、本当の詳細なところは機屋さんしか分からないと思います。平織り+斜子織り(平織りの一種)でButcherという名前があったり、色柄と混乱が生じたりもします。日本が言葉を輸入した時に混乱が生じることもあります。

例えばサージです。元は同じ「serge」なのですが、日本に入って来た時、洋服の場合には「サージ」、和服の場合には「セルジ(セル地,セル)」と分かれてしまいました。「サージ」は綾織りなのですが、「セル」と言う時には綾織り/平織りの両方が存在します。生地の名前と平織り/綾織りは必ずしも一致しないことがあります。

生地の糸 - スーツは梳毛糸 (ウーステッド,worsted)

生地は勿論、糸から出来ています。糸から出来ていない生地を「不織布(ふしょくふ)」と言いますが、紳士服で不織布は使いません。

梳毛糸 = 一般的なスーツ地

梳毛糸(そもうし)というとイメージが湧きにくいと思うのですが、要するに5cm以上の毛で作られた糸のことを言います。もっと端的に言えば「長い繊維で作った糸」です。長い毛を「くしけずって」作っているので、梳毛という訳です。英語ではウーステッド(worsted)。

時折、生地の糸をバラバラに解いて繊維を調べることがあります。一般的な生地で非常に長い印象があったのがDormeuilの旧Tonikで、20cm-25cmありました。テーラー、仕立屋はそういう調べもする酔狂な仕事です。

閑話休題。以前に書きましたが、長い繊維は折れ目がないので丈夫です。同じ強度でも細くできるので細番手の糸になります。スーツでは共地でズボンも作りますから、耐久性が必要になります。そのため「スーツに使えるのは梳毛糸」のものということになりますね。結果としてスーツに使う生地の多くは「梳毛糸」になります。上記生地の写真では、全て梳毛糸です。

紡毛糸 = ジャケットやコート

ツィード (tweed)

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メルトン (melton)

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紡毛糸(ぼうもうし)というのは、やっぱり言葉だけだとイメージが湧きにくいと思います。紡毛糸は「梳かない」毛で作った生地です。5cm以下の毛が混じっていたり、そのような毛だけで作った糸を紡毛糸と言います。英語ではSpun Woolen Yarn, 略してウールン(woolen)などと呼びます。紡毛が多い生地は、「ツィード(tweed)、メルトン(melton)、フランネル(flannel)」です。

5cm以下の毛を使うので、折れ目が出来て弱くなります。結果、基本的にはズボンに向きませんから、コートやジャケット(替え上着)に使います。紡毛糸になる代表的な毛が「カシミア」です。カシミアは産毛を使うため、繊維がどうしても短いものになります。そのため紡毛糸が普通です。紡毛糸のカシミア生地のことを「紡毛カシミア」と呼ぶことがあります。

これに対していつかご紹介した「スーツを作ることができる超高級カシミア」は、上記の紡毛カシミアではなく「梳毛カシミア」と呼びます。毛足の長いカシミア毛を使うので、梳毛糸にできる = 強いからズボンにも使える = スーツにも大丈夫というわけです。

生地名称が難しい原因の一つ
ミルド(milled,縮絨) と紡毛/梳毛の組み合わせ

メルトン

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サキソニー

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個人的に生地の名前が良く分からなくなりがちと思えるような用語がこの二つ「ミルド/縮絨」「紡毛・梳毛」です。メルトンとサキソニーの生地、色柄は異なりますが、似た風合いになっていませんでしょうか。

布に圧力を掛けて縮めると、毛の先端が絡み合ってフェルトのような風合いになります。この風合いを出す加工を縮絨と言います。両者は共に縮絨が掛けられているので、似た風合いになるわけです。

一般にサキソニーは「紡毛,綾織りで縮絨したもの」を言います。ここで「梳毛,綾織りで縮絨したもの」になればどうなるか。名前が変わります。サキソニーではなく「ミルド・ウーステッド」となります。

縮絨+起毛の度合いでも名前が変わります。同じ綾織りにサージ,サキソニー,フラノがあります。

糸を無視すると、縮絨も起毛もなければサージ、縮絨と起毛が薄く表面を覆っていればサキソニー、縮絨と起毛で斜めの織り目が全く見えなければフラノです。

サキソニーとミルドウースの違いは、専ら梳毛か紡毛の違いです。しかもサキソニーは紡毛ながら、スーツにできる程度の強度はあります。ミルドウースは梳毛ですから、勿論スーツに使えます。更にややこしいことに、「梳毛サキソニー」という言葉が使われることもあります。

直接触って「この生地はどう扱うべきか」は把握できるのですが、生地の名前の正確なところは未だに良く分かりません。…どなたか何とかしてくれると、とても助かります(他力本願)。

少しだけ整理

定番の生地について繊維や織りを少し(無理矢理)整理してみました。

ギャバジン 綾織り 梳毛糸 この二つは共に丈夫な生地として有名です。ギャバジンは縦糸が横糸の2倍、サージは45度バイアスのような斜め文様が特徴です。スーツに使う梳毛織物の代表格です。
サージ 綾織り 梳毛糸
マットウース 平織り 梳毛糸  
ポーラ 平織り 梳毛糸 この二つは同じ織物です。強撚で夏服平織りの代表格です。
フレスコ 平織り 梳毛糸
ドスキン 繻子織り 梳毛糸 礼服に使われる代表的な生地になります。
ツィード 綾織り 紡毛糸 元は手紡ぎ,手織りなので織りが甘いという特徴があります。色々なツィードがありますが、基本構造に余り大きな違いはありません。
メルトン 平/綾織り 紡毛糸 この三つは良く似た風合いです。
サクソニー 綾織り 紡毛糸
フランネル 平/綾織り 紡毛糸
羅紗
(raxa)
平/綾/
繻子織り
紡毛糸 紡毛糸で作られた厚手生地のことです。例えば紡毛カシミアのメルトンは「羅紗」ですが、サージは羅紗ではありません。今では布全般を表しています。

上記の表は無理矢理です。特に「紡毛」と書いてある部分については、ほぼ全て、それぞれに「梳毛」やバリエーションがあります。例えばフランネルにも梳毛と紡毛の両方があります。

2008.9.19