double face

表地+表地で1枚の生地

Double Face

double face
double face 面1
double face 面2

2枚が1枚に縫い合わさっています。見返しを使わなければ、襟に反対側の色柄が出ます

見返し

前回、十年ほど前の生地には、高品質の割に良い生地が見つかることが多いとご紹介いたしましたが、既にオーダー業界では全く無くなってしまったタイプの生地が入ることもあります。冬に冬服では遅きに失している感じは致しますものの、今回はそんな生地、ダブル・フェイス(Double Face)の一種につきまして。

このDouble Faceはいわゆるリバーシブル生地の一種ですが、生地2枚を縫い合わせて1枚にしてあるところが眼目です。2枚重ねても「軽く/薄い」ものでなければなりませんので、良い繊維を用いなければなりません。必然、贅沢な生地になり、カシミアが多かったように思います。

今回入った生地は右の写真のもので、藤井毛織のカシミア100%、黒/ホームスパン(霜降)の2枚合わせです。カシミアの質も上々、保管状態も上々です。これも既に生産のない生地で、十年ほど前の生地になります。当時幾らだったか調べてみましたところ、当店では9万円@mでした。

この生地の面白さは、やはり2枚で1枚というところにあります。見返しを付けませんので、裏側の生地が襟の部分だけ表に見えるようになります。また、風などで裾がはためくと、ちらっと裏側の柄が見えるという楽しみもあります。実際にご覧頂けると、この生地独特の面白さは強く印象に残ると思います。

かつては非常に人気のあった生地で、この生地を特に研究しているテーラーもあったほどです。ただ、この十数年来、まるでご無沙汰です。恐らく、この生地のことを良くご存知であるのは、50-60歳以上の方ではないでしょうか。

冬のアンコンに最適

この生地は2枚を1枚にしている関係上、芯が入りませんのでアンコンを想定しています。本来的な紳士服の良さには乏しくなりますが、布自体、良いカシミアをローブのように羽織ってしまおうという感覚を目指した服になりますね。

裾ハネの抑制

紳士服特有の湾曲はカッティング・レベルのみになりますが、通常のアンコンとは異なって、若干、裾部分で縫製上の工夫も施せます。アンコンで多く見られる裾のハネはなくなります。裏側の生地を若干縮め、手纏りで裾を止めますので、内に向かって力がかかるためです。

オーダーの世界でdouble faceがなくなったのも、実はこれが理由です。全て手纏りですから、アンコンにしては手が掛かり過ぎ、高価になりやすい面がありました。そのため非常に安価な中国製に席巻されてしまい、オーダー業界からは無くなってしまいました。

布そのものを羽織る感覚で

double face 着用 double face 置き

Double Faceを実際に仕立てると上のようになります。上記の生地とは異なり、この生地は「裏表ともに黒」になります。裏地がありませんので、袖を捲っても、やっぱり表地が見えます。くたっとした、カシミアならではの風合いを「布そのもので着てしまう」という雰囲気です。冬服ならではのアンコン、理想的なアンコンです。

また、通常通りのコートとして仕立てることも可能です。裏を全て抜いてしまえば、裏側になっている表地(…なんだか良くわからない表現です)が、柄裏地のように見えるという使い方になります。この生地は、かなり使い方が幅広く、頭を悩ませますが、最近ではまるで見ないタイプの生地として、少しご紹介してみました。

高級生地ですので、全体の流量も限られており、最近ではまず見なくなりました。ただ、まだ出てくるかもしれません。しかも、安価に入ることが多いと思います。もし安価に入りましたら、かつての生地価格のみで仕立上がり可能だと思います。「布そのものの価格で、布そのものを着るような服」、どうぞ一度お探しになってみてください。

当店の場合、当時、上記(藤井/カシミア100%)は生地価格9万円@m、コート2m 18万円(生地価格)+縫製でした。現在は生地価格4.5万円@m、コート2m 9万円(生地価格)+縫製 = 約16万円になります。

ところで、かつての良い生地、今ではこれをビンテージとも呼んでいたりしますが、それを褒めるにあたり「適度に油も抜けて」というのはナイでしょう。生地から油が抜けて良いことは何にもありません。通常は「劣化/保存状態が悪い」と呼びます。

2007.1.22