湿度と服

湿度が高くなると服はどうなるか

湿度と生地は密接な関係があります。ただ、湿度が高くなっても特に見栄えの変化しない服もあれば、途端に小さなよれがあちこちに出る服もあります。これは値段や品質に比例せず、生地素材の性質や縫製の性質によって左右されます。まず最初は生地と湿度の関係につきまして。

湿度が高いのは大嫌いと書いた所、そんなに湿度が高いと服は変わるのかとご質問を頂きました。そこで、どれくらい変わるのか、写真に撮ってみました。この二つの服は、この時期の服として大変自信を持っています。生地は繊細で薄いもの、フル・オーダーです。

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左は降雨 1日目、右は降雨 3日目です。3日も雨が降り続くと、空気を絞ったら水が出そうなほど湿度が高くなっていました。その結果、右の写真の赤い丸を降った所に、若干のシワのようなものが出ています。これが湿度によるシワです。

乾けば完全に消えてなくなるのですが、3日も雨が続くと覆いようなく、出てきます。これは困ったことに、フル・オーダー特有の湿度に弱いがゆえのシワです。フル・オーダーは最も快適に作れるのですが、湿度にだけはなかなか勝てません。

良い生地であればあるほど湿度に弱い (吸湿性が高い)

- 表面積 体積
太い 24π cm² 16π cm³ 1.5:1
細い 10π cm² 4π cm³ 2.5:1
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高密度 細い繊維 =湿度に弱い
高密度 太い繊維 =冬服に向く
低密度 細い繊維 =極めて弱い
低密度 太い繊維 =湿度に強い

生地は繊維で出来ています。そして、獣毛であるウールやカシミアには吸湿性があります。お風呂に入ったときや、雨で濡れた際、「髪の毛」が普段とは違う雰囲気になりますが、それと全く同じです。

繊維は細ければ細い程、体積の割に表面積が大きくなりますので、湿度に敏感に反応します。繊維が細ければ細い程、湿度に良く反応するということになり、吸湿性が高くなります。

次は糸のより方です。強くよった糸(強撚糸)は、吸湿性の面では太い繊維と同じになります。そのため吸湿性が落ちる代わりに湿度の影響が出にくくなります。弱撚糸は湿度の影響を強く受けます。

あとは密度です。極めて密度が高い場合、強撚と変わらないので、湿度の影響は少なくなります。但し、冬服向きです。密度が極めて低い場合、ガーゼのような場合には、繊維と繊維が影響を及ぼさないので、湿度の影響は少なくなります。夏服にちょうど良い密度が湿度に弱いと言えます。

ちょっと大雑把で、怒られるかもしれませんけれど、まとめてみました。

強撚
細い繊維 メッシュ Dormeuil Shupreme
太い繊維 高密度 Pora織
細い+化繊 メッシュ Shalick, 亜熱帯
弱撚
細い繊維 中密度 Zegna Allegrro
細い繊維 低い密度 軽いが弱い
太い/化繊 低い密度 極めて安価な既製服

強撚糸を使ったものは、一般に湿気に強いです。ただ、少し重く、暑さを感じるために最近では流行りません。これは従来傾向の伝統的な夏服生地です。またこちらの系統で高品質なもの(繊維が細いもの)は、使用する繊維量が多いため高価になります。

弱撚糸を使ったものは、一般に湿気が弱くなります。高品質=湿気に弱いというのは、この系統の生地に顕著です。最近受け入れられることの多いイタリア生地はほぼ全てこの系統です。

縫製と湿度

A…B

24_02.png

湿度に強い縫製と、弱い縫製というのもあります。これも中々、入り組んでいて、価格や品質と素直に比例しない所が困りものです。湿度に弱い縫製とは、布と芯を留める箇所が多い縫製方法、つまり英国調フルオーダーです。

理屈は単純です。湿度を吸えば、繊維は伸びます。しかし、その繊維の両端をきっちりと留めてしまえば(A)、伸びた繊維は逃げ場を失います。その結果、シワやよれ、ピリとなって生地の表に現れます。日本のフル・オーダーにとって、最大の敵/難関は湿度です。

しかし、例えば芯がなかったりなどして、このようなトメがない場合(B)、生地は伸びた分だけなびいてシワになりません。つまり、湿度に強いことになります。これは一般のイタリア的フル・オーダーや、手縫+機械縫製、アンコンです。つまり非構築的であればあるほど、湿度に強い構造ということになります。

もっと、湿度に強い構造の服もあります。接着芯を使えば、構造上湿度に最も強くなります。つまり最も湿度に強い服とは、「化繊であり、密度が低く、接着芯を使った服」ということになりますね。…恐ろしい服です。カッパにメッシュ状の穴をあけたものと言えるでしょう。吸湿性がないのにメッシュにすると、幾ら薄くても暑いのです。

某所で見たことがありますが、相当、暑くて不快だと思います。

快適であればあるほど湿度に弱い

つまるところ、湿度に弱いというのは、=吸湿性/放湿性が高いということと同義です。快適な生地であればあるほど湿度に弱くなり、シワが出易い。また、構造上でも、柔らかさと丈夫さを兼ね備えようとすればするほど、シワが出易くなります。快適かつ実用やクリーニングに堪える耐久性を備えれば、湿度に負けてシワになりやすいということになります。

そのため、湿度が高い時期ほど、イタリア型の服はシワが出にくいという変な話になってきます。どうして乾燥した地中海性気候のイタリアの服が日本の梅雨に向くのか、何だかとても複雑な気分です。

そんなわけで、やはり日本のテーラーにとって、湿度こそ、湿度こそ、最大の敵であるというわけです。湿度が高くても変化しにくく見栄えがして、快適な服、テーラーの腕を見るには梅雨時に仕立てるのが一番良いとも言えますね。湿度対策こそ、この季節、テーラーの腕の見せ所である訳です。

2006.07.07