良い裏地

裏地の種類

裏地は、仕立てにおいて「付属」と呼ばれるものですが、着心地に直結する大事な部分です。当然、生地に品質があるように、裏地にも品質があり、良い裏地は着心地が良くなります。大まかに分けて、裏地の種類には三種類あります。

合成繊維

多くはナイロンとポリエステルです。ナイロンは極めて強靭ですが、熱に弱く、うっかりアイロンを掛けると一瞬にして縮みます。そのようなご経験はありませんでしょうか。そのため低温プレスが必要になり、大量生産品で多く使われます。尤も、最近ではあまり見なくなりました。

ポリエステルは熱に強く、極めて強靭で型くずれしにくい便利な繊維です。大抵の既製服に使われています。高密度のポリエステル素材を起毛させたのものをフリースと言います。ただユニクロのフリースがそうなのかは知りません。元々のフロース(fleece)は羊毛という意味です。

ポリエステルは吸湿性に欠け、夏場には暑く、肌触りも良くありません。また静電気が発生します。一部、吸湿性に優れたものも出てきましたが、質感に劣ります。

天然繊維

最近では裏地に天然繊維を使う事は殆どなくなりました。裏地に使う天然繊維は、「アルパカ」の毛を混ぜたものか「絹」になります。アルパカは25〜30ほど前までは、かなり多く使われていました。普通は経糸に綿などを織り込みます。100%アルパカの裏地は当時でも高級品でした。

服地が獣毛ですので静電気が起きにくい上、光沢があり耐久性に優れるという美点があります。ただ若干重くなります。最近ではまるで見なくなりました。

絹は肌触りも良く最適で、元々裏地といえば絹でした。しかし実用性を考えて密度を高くすればかなり高価になる上、取り扱いに難があります。そのため、かつても少なかったのですが、今では滅多に使われません。

再生繊維

天然繊維を溶かして作る繊維です。植物繊維(セルロース)を溶かして作ればレーヨンといいます。このレーヨン繊維の短いものをステープルファイバーと言い、戦中戦後の世代の方は「スフ/人絹」と呼びました。かつては粗悪繊維の代名詞でしたが、今ではかなり良いものになっています。

裏地の場合、レーヨンの中でも、綿花を原料にした銅アンモニアレーヨンが多用されています。キュプラ(Cupro)やベンベルグ(Bemberg)と呼びますが、ベンベルグは旭化成の登録商標になっています。元々は20世紀初頭ドイツ、ベンベルグ社の商品名の筈なのですが、どういう経緯で旭化成の商標になったのかは分かりません。現在、このキュプラやベンベルグが裏地の主役です。

光沢があり、軽く、薄い裏地です。更に吸湿性が高く、静電気も起きにくいため、かなり良い裏地です。

裏地の色々

一般的な裏地の構成
経糸 緯糸
ナイロン 100% ベンベルグ 100%
ポリエステル 100% ベンベルグ 100%
ポリエステル40% ベンベルグ60%
ベンベルグ 100% (単糸/双糸)
ベンベルグ 100% (双糸/双糸)

かつて、裏地は福井県で多く生産されていました。今では裏地そのものの単価が安いためか、大手に収斂されていきました。今では旭化成が最大手。ほぼ独占状態ですが、品質は世界的に見ても有数と言えます。

右の表は、一般的な紳士服裏地の構成です。下に行くほど品質が良くなります。通常の生地に準じて単糸/双糸の別があります。当然、双糸x双糸のものが良く、手触りは絹に近づいていきます。

ところで、Zegna社は今までイタリア製と思われる裏地を使っていたのですが、あまり品質が良くなく、私自身、お客様にお勧めしたことはございませんでした。確かにZegna社のものはデザイン性が高いのですが、どうしても着心地が良くありません。

そこで、Zegna社は今年から裏地を旭化成のBembergにしたようです。普通、裏地に色は豊富ですが、柄は余りありません。Zegna社のBemberg裏地は、柄についてはこの2種類があります。

…ただ、品質は経緯100%ベンベルグを使っているものの、最上級の品質と言うわけではありません。'柄'という面に着目すれば、Zegnaのものは悪くありませんが、着心地という面では今ひとつです。Zegnaに限らず、なぜかブランドの裏地には余り良いものがありません。

通常の裏地であれば、更に良いものがあります。デザイン性を優先するのであれば、Zegnaの裏地、そうでなければ通常の裏地をお選びになった方が良いと思います。

…ところで、裏地と言えば、昔のことではありますが、お客様のご指定を受け、上質な絹のスカーフで裏地を作ったことがありました。もともと絹は裏地に向きます。3〜4枚寄せれば裏地にすることが出来ます。色柄もそれこそ無数です。耐久性は犠牲になりますが、こういう洒落も実は可能だったりします。

2005.09.08