イタリア生地の欠点
目付
注: この記事は2003-4年当時のものです。現在、状況は随分変化し、イタリア生地と英国生地の境界はかなり少なくなっています。例えばCanonicoでも非常に良い生地が増えています。2008年5月6日追記
目付はメツキと読み、江戸時代の目付(めつけ)とは違います。人の顔の目つきでもありません。これは生地の密度を指す業界用語です。普通、生地に使われる繊維の太い/細いを意味するSuper表記やDenir=デニール表記を目にする方が多いと思いますが、これらともまた別の意味です。
以前にも書きましたが、Super/Denirが細い、つまり糸が細かったとしても、その密度が低ければ粗悪な生地ができあがります。この密の低い高いは写真にしても分かりにくいのですが、主に「皺になりにくさ・丈夫さ」の違いとなって現れます。
端的に言ってしまえば、「軽くて滑らか、皺になりにくくて丈夫」が最高です。しかしイタリア生地は総じてメツキが悪いのです。一見、滑らかで光沢があり、丈夫さがあるようなのですが、同価格帯の国産生地に比べると劣ります。「軽い」ものの「皺になりにくくて丈夫」という点で劣ります。
メーカ毎の違い
たとえば、国産生地の高級品である大同毛織のインペリアルは極めてメツキが良く、滑らかで、重ね合わせて擦るとヌメりがあります。つまり滑らかで着心地が良いというわけです。そして、もちろん丈夫で、軽いです。
これに対してゼニアと極めてよく似た生地を作るメーカに、カノニコがありますが、メツキが極めて悪い。密度が低いですから、当然、インペリアルよりももっと軽いです。使用している糸は極めて良好ですから、風合いや光沢は良いですが、「圧倒的に弱い」訳です。結果として見た目はゼニアと似ているのに、価格でもゼニアに劣るということになります。
では、最近流行のゼニアはどうか。イタリア生地である以上、メツキは悪いです。ただ悪いながらもカノニコほどではない。その結果、カノニコよりも丈夫で、インペリアルよりも軽くなる訳です。
インペリアルも十分軽いのですが、ゼニアやカノニコは密度が「本来あるべき程度よりも低い」ため、「更に軽い」感じになるわけです。
ゼニアはよく言えばバランスが良い
つまり、
- メツキが良い=丈夫で滑らか。
- メツキが悪い=丈夫さと皺になりにくさは犠牲になるが、軽い。
こういう訳です。カノニコは極めて良好な糸を使っていますから、光沢や風合いは良いのですが、メツキの悪さから、皺になり易く、丈夫さ滑らかさはありません。見た目は良いのですが、生地そのもの品質は甚だ疑問です。最近の流行が軽い生地であるために人気がありますが、カノニコは商売気があり過ぎると言わざるを得ません。
インペリアルは極めてメツキが良いですから、品質は抜群で、最高の紳士服を作るのであれば、このような生地以外はあり得ません。しかし最近の流行は軽いものが主ですから、余り受け入れられない様です。本来、極めて良い生地ですから、光沢も相当出せるはずですが、敢えて出そうとしないところ、商売上手ではありません。しかし、その良心的な点は素晴らしいと思っています。
では、ゼニアはどうかといえば、ちょうどその真ん中です。メツキもそこそこ良く、デザイン性も重視し、軽さもある。消費者の方々は良くご存知です。バランスが最も良いのがゼニアです。ただ市場重視なのは当然ですが、ちょっと商売気が強い気もします。「生地素材としての良さ」という面では、ゼニアは確かにインペリアルに劣ります。
メーカとしてのありよう
ゼニアにしろ、大同毛織にしろ、カノニコにしろ、それぞれ素材メーカーです。ですから、デザインも勿論重要ですが、品質が第一です。当店もゼニアの正規取扱店ですから言いにくいのですが、生地素材としての品質は「イタリア生地は総じて劣る」と言わざるを得ません。むろん、ゼニアは最もバランスがとれています。しかしデザイン性とともに、品質も向上してもらえると、なお素晴らしいメーカーになると言えるでしょう。国産生地の同価格帯の商品と比べて品質が劣るのは少し頂けません。
やはり品質が同じで、なおデザイン性が高いというのが理想です。
メーカーの方針と生地の品質
ところで、ゼニアの良さは他にもあったりします。ブランド戦略という点も勿論あるでしょうが、「自社の製品に自信がある」点がなお良いです。
最高の生地を最高に生かして服に仕立てるのがテーラーです。もし、最高の服を作るのであれば、一人の職人で可能なのは、月間数着です。ならば、これを月間1万着製造するのは、明らかに生地本来の特性や良さを生かせていません。
もし自社の作る生地に自信があるのなら、1万着作る既製服メーカーには安く売り、テーラーには高く売るということはしないはずです。つまり、沢山売れるから安くするということはあり得ないことになります。せっかく作った生地を、わざわざ粗悪に使用する買い付け人を優遇するのは、自社の製品に自信がないと思われても仕方がないでしょう。
ゼニアでは、これがありません。月に1万着の生地を買っても、月に数着でも、一着あたりの価格が同じです。ゼニア社は生地に自信を持っているのですから、悪いわけがないとも言えますね。