生地の善し悪し
良い生地の条件
「良い生地が弱い」ということはありません。生地価格が30〜40万円の極めて高価な生地、あるいはモヘヤやビキューナといった特殊な生地をのぞけば、良い生地は強いです。他方「糸が細ければ良い」ということは、もっと外れています。
生地の品質を決めるのは三点。糸の細さ、糸の密度、糸の縒りです。これらの組み合わせで決まります。ただ、糸の縒りだけは、強すぎると風合いを殺すこともあるので、ちょっと一概には言えませんけれども。
一言で言えば、「糸をどれだけ沢山使ったか」で生地の善し悪しが決まるというわけですね。糸の縒りを増やすか、密度を増すかで、糸の量を増やさなければなりません。ただ、そうすると重くなるので、これをさけるために、細い糸を使う訳です。
軽「涼?」スーツ(夏服)
糸が細ければ涼しく軽くなります。しかし当然の事ながら、生地は弱くなります。この矛盾を解決するためには「糸の撚り」を問わねばなりません。
1.繊維
2.単糸
3.双糸
糸は繊維(例えば羊の毛)で出来ています。この繊維をまず1のように縒りあわせます。しかしこの段階では未だ糸ではありません。
1を更に縒りあわせて糸を作ります。この2を「単糸」と呼びます。
単糸と単糸をよりあわせて更に強さを出します。これを3「双糸」と呼びます。・・・少し図柄を書き直したのですが、なかなかうまく書けません。
単糸は繊維量が少ないのですから軽くも安くもなりますが、当然弱い。弱いですからポリエステルを織り込んで強度を出します。しかし、ポリエステルには吸湿性がありませんから、ひどく暑くなってしまいます。暑いですからメッシュ状にしなければとても着ることができません。ですから「軽涼メッシュスーツ」なのです。
逆に双糸でかつ繊維が細ければ、化学繊維を使わずとも強くできます。自然繊維の吸湿性も保てるため非常に涼しくなります。更に強いですから、生地の密度を落とすことが出来るので、軽くもなります。これがまさしく「良い生地」と言えるでしょう。ただし、こういう生地は高価です。例えば、ゼニアでは生地価格10万円ほどは致します。
この双糸と単糸、一番の違いはコートに出てきます。コートは服地面積が大きいですから、繊維量の違いは価格に反映されやすい。カシミヤのコートが1万円〜30万円まであるのは、ひとえにこの単糸と双糸の違いが大きく関わっているわけです。
糸の細さと密度のごまかし(冬服)
密度が高い = 強い
糸が細くなければ重い
密度が低い = 軽い
縒りが強くなければ弱い
一般的には、Super100'sよりSuper120'sの方が糸は細く、細い糸の方が品質が高いです。しかし糸が細いからと言って、その生地が良い生地だとは言えません。特に冬服では顕著です。糸が細くとも、密度が低ければ二級品となってしまいます。理由は端的で、細い糸を使った上に、その糸の量が少なければ弱くなってしまうからです。
糸が細いほど、軽くて柔らかい肌触りの良い生地が出来ますが、これは同時に生地を弱くしてしまうことも意味します。ですから「良い生地ほど密度を高く」して、強く腰のある生地にしているわけです。密度の低い生地は織りが甘いと言われ、一歩間違えればSuper120'sでも二級品以下となることがあります。
他方、重くてもよいので徹底的に密度を上げた生地には有数の高級品が存在します。カネボウが生産していた「カレッジ・フラノ」です。フラノ(フランネル flannel、ネル)では世界有数のものだとも思われるのですが、カネボウが整理に入った以上、このカレッジ・フラノも生産中止になるでしょう。何とも寂しい限りです。