修理したのに何処か違和感がある

修理と一口にいうものの

最近、既製服の修理に関してご質問を頂くことが多くなりました。お店で断られたり、何となく満足いかない結果になることが多いのはなぜか、というものです。当店でもご容赦をお願いすることがありますし、そこで今回は既製服の修理についてになります (フル・オーダーの修理はまた少し違った話になります)。

修理/直しと一口に言うものの、実際には二種類あります。一つは繕いもの = repair で、壊れた箇所を直して元の状態に近づけるものです。もう一つは仕立て直し = remake で、元の服から別の服を作るものです。これが共に「修理/直し」と呼ばれるところに問題があります。たとえば「ジャケットの丈直し」は後者です。後者ですから、「別の服」を作るのと同じです。たとえば、ジャケットの丈を詰めると以下のような変化が生じます。

ジャケットの丈を詰めると起きること

長方形の比が変わる

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ジャケットを極めて単純にすれば長方形になります。ここで、オリジナルA1の裾を上げるとB1になり、縦横比が変化します。単純にまるっこくなります。今の流行からは「太短い」と表現されるかもしれません。

実際には微妙な違いなのですが、人はかなり敏感にこの違いを感じ取ります。A1と同じ印象にするには、横幅も縮めてA1'にする必要があります。

重心位置が下がる

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服にはシルエット上の重心が存在します。A2がオリジナルだとすると、丈を縮めてB2にした場合、重心の位置が下方に移動します。A2とB2ではかなり印象が違うと思います。

もし重心位置を同じにするのであれば、A2‘のように横幅も修正する必要があります。

ディティルの位置が全て下方に

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ポケットやディティル位置も全て下がるので、重心を更に押し下げます。特に腰ポケット位置はかなり目立ちますから、想像以上に変化を感じるようになります。A3/B3では完全に別物の印象です。

また、横幅を詰めてA3‘にすると、今度は腰ポケット(やその他のディティル) サイズが相対的に大きくなります。A2/A2’ は同じと言えますが、A3/A3’ は別物の印象に近くなります。

袖丈

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袖丈は基本的に影響が小さいですが、それでもデザインによっては変化が大きくなることがあります。理屈は同じです。腕は下方に向かって小さくなる台形です。丈を変化させるとA4→B4へと変化します。同じ形になりません。更に下辺が広くなるので袖口巾も大きくなります。

これを避けるにはA4’のように全体を細くしなければいけません。或はC4になります。但しC4では肩から袖口への傾斜角が変化します。

体型との関係

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修理は「体型」からも影響を受けます。 たとえば「大きく長いジャケットを、短く細く今風に」と考えた場合、なで肩と怒り肩では結果が違います。なで肩は期待通りになりやすく、怒り肩は難しくなります。

これは肩周辺の距離がなで肩では短く(L1)、怒り肩では長い(L2) ためです。丈を縮めると、怒り肩を誇張することになるため、「太短い」印象が強くなります。時代劇の裃の印象にも近づきます。

An' は全て不可能

同じ反でも微妙に違う色

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以上のような変化が起きますが、実際問題として A1’-A4’は余り現実的ではありません。特に A1’-A3’は、肩幅+アームホールの作り替えが必要になるのですが、これは理屈としては可能であるものの、極めて手間がかかります。

また、既製服の修理では新規に同一の生地を入手することが不可能なので、余りに広範囲の修理は極めて危険です。運良く同種の生地が入手できても、反が変われば色味が微妙に違います。同じ反ですら違うことがあります。

remake としての修理 = 似た別の服を作る

repair,繕いものとしての修理には問題がありません。むしろ早めに出した方が長く快適に着けられます。問題は remake としての修理です。特に丈直しは価格が安価であるため、安全で手軽な方法に見えてしまいますが、実際にはかなり広汎に影響が出ます。修理というより再デザインです。

そのため、remake としての修理では、制約の中で「別の服を作る」と思い切った方が良いかもしれません。要は再デザインですから、修理個所だけを見るのではなく、「全体のデザインを見る」よう心がけます。自ずと修理個所や程度が決まります。

ただ、修理個所が増えれば費用も増えますし、オリジナルの制約からも離れられません。実際に行っているのは再デザインですから、修理という語感の割に難易度が高いのも変わりません。なかなか厄介な既製服修理の話でした。修理をお考えになる際の参考になりましたら幸いです。

2011.10.18