インバネスのお仕立て

古き良きオーバーコート

今秋は大変多くのご注文を頂きまして、真に有り難うございます。更新が随分と滞ってしまいました。今回はコートにつきまして。

今季は少し珍しいコートをお仕立てしました。インヴァネスと呼ばれるオーバーコートです。大変久しぶりのことで、前回が何年前かは少し思い出せません。古き良き時代のインヴァネスコートです。ディアストーカー(鹿追)とパイプを合わせるとシャーロック・ホームズです。

19世紀末のインヴァネスの裁断

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All Kinds of Overcoats Past and Present (with Illustrations ++++)

英語では inverness (cape) coat/cloak で、ヴィクトリア朝(1837-1901)、エドワード朝(1901-1914)で上流階級に流行、ホワイトタイ(最礼装の一)と共にも用いられたようです。現在、欧州で最もポピュラーな着用は、レインコート, カントリーとしてのもので、袖がないことからバグパイプ奏者に特に好まれるようです。

日本では男性の和装用コートとして非常に広く普及しました。鳶(トンビ)、二重回し、二重マントと呼ばれます。お仕立てに当たって、再度方々に確認しましたものの、どうやらこれらの呼び方の違いには明確な定義があるような無いような、今一つはっきりしませんでした。よれよれの着物+袴+お釜帽+インヴァネスと来れば、勝手ながら金田一耕助です。戦前〜戦後まで非常に良く用いられました。

当店では非常に久しぶりのインヴァネスのお仕立てです。どうすれば現代的かつ伝統的なものになるかと、この際とばかりに色々と資料を集めてみました。

ウェブ上では欧州の方が19世紀末の裁断図を掲載していました。びっくりです。このように情報を取得できるとは隔世の感がありますね。その他、業界紙を出していた出版社の方を通して、別に裁断図も寄せてみました。この出版社は真にテーラーの味方です (洋装社と言います)。

お客様がお持ちになっていた戦前のインヴァネスをお借りしたり、仲の良い同業者や、問屋さんを通して遠い同業者の方にも意見を伺ってみたり、かなり楽しく仕事をさせて頂きました。

ちなみに、インヴァネスは生地の使用量が非常に多く、通常のコートの倍近く(約4.5m)も使います。そのため重い生地で仕立てる場合、かなり肩へ重さが掛かります。(とても寒い地域でない限り)できる限り軽く丈夫な生地がお勧めです。今回のインヴァネスにはポッサムを使用しました。

余りに快適

このコートの快適さには人の怠け心をくすぐるものがあります。ルースで体を締めつける部分がなく、身に付けてしまえば極めて柔らかい温かさがあります。多少の雨や風雪ではもろともしないでしょう。手を広げると、カラスのようにケープが広がるのも、インヴァネスの特徴です。(* お客様にお仕立てしたお洋服を、確認外の用途である写真撮影のためにも着用させて頂きました、ありがとうございます)

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冬季、今のように暖房が豊富ではなかった頃なら、身に付ければ二度と脱ぎたくなくなったでしょうね。流石インヴァネス、英国北部 ハイランドの名を冠するだけのことはあります。何と言いますか、独特の快適さです。

和装に合わせるトンビでは、詰め襟のように襟が喉元まで上がるものが多いのですが、今回は洋装、現代的要素の必要から、和装のものに比べて襟を若干下げてあります。

…ところで、以前にボルサリーノや麻100%を着用した際にも思ったのですが、どうやら私は特定の衣服を身に着けると悪役になってしまうようです。悪役商会の一員のような雰囲気がしますが、それはご愛嬌ということで。

古き良きイメージを出すことも出来れば、合わせ方によっては貫録も出る、しかも快適。珍しくはありますが、今に残るとても面白いコートです。

2009.12.16