三ツボタンの一番下はなぜ掛けないか
ボタンの基本的な型
ボタン個数や幾つ止めるかは、最初のデザイン/縫製の段階で決まっていて、2ツ掛け用の服は2ツ掛け、1ツ掛け用の服は1ツ掛けです。ボタンの個数と実際に掛けるべき個数は、必ずしも一致しません。シングルの代表的な掛け方を表にしてみました。大まかな習慣のような決まりがあります。1-1のような記載は、1ツ釦-1ツ掛けを略したものとなっています。
1-1 | 2-2 | 2-1 | 3-3 | 3-2 | 3-1 |
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O | O O |
O - |
O O O |
O O - |
- O - |
礼服 | アイビー | ? | コート類 | クラシコ 細身体型 |
クラシコ 標準体型 |
まず1-1ですが、これは専ら礼服に用います。それ以外に使うことは余りありません。
シングル2-2は、初期のアイビーに多い形状で、最近ではまず見かけません。2-1はバランスが良く、飽きのこないデザインであるためか、非常に一般的に用いられます。
釦3ツのジャケットは一般的にクラシコ・スタイルと呼ばれます。この場合、3-2, 3-1 となり、第3釦は止めません。
なぜ一番下を止めないか
なぜ一番下を留めないか、この文化的理由は分からないのですが、構造的理由は極めて端的です。ボタンはジャケットの合わせと平行でなければ奇麗に止まりません。第1、第2ボタンは平行に付いています。しかし、左図の様に、フロントカットは第2ボタンの直下から湾曲を始めます。
この湾曲の結果、第3ボタンでは、合わせと平行になりません。
第2ボタンと第3ボタンを留めてしまうと、丁度円錐の切れ目を閉じた状態になります(右図)。結果、第2-第3ボタンの二つで円錐を作ることになってしまい、奇妙な膨れが出来ます。これは余り見目宜しくありません。
つまり、なぜクラシコで一番下を留めないか、一言でいえば、「そもそも留める様に作っていないから」となります。3ツ釦-1ツ掛、3ツ釦-2ツ掛が別個に存在していているのと同様というわけです。他方、留めるように作れば、留められるようになるということになりますね。
では、一番下を留めるジャケットはあるのか
勿論あります。以下列挙しますと、ダブル・ブレスト、マオ、フロックコート、学生服等です。3ツ釦の一番下を止めないのは、フロントカットの湾曲が第2釦直下から始まるためでした。上記のジャケット/コートは、フロントカットが全てスクエア(角型)です。そのため、構造的に一番下のボタンを留める様に出来ており、ちゃんと機能しています。
ただ、詰め襟の学生服を身に着けられた方は経験があると思いますが、一番下のボタンをとめると、学生服は丈が長いため、非常に座りにくくなります。そのため、立つことを想定した式典以外では、一番下のボタンを外していたと思います。
クラシコの第三ボタンを留めない文化的な理由、これはこのような「座り易い」といった機能性や、美的感覚など習慣が持ち込まれ、そのまま定着したためかもしれませんね。
服は“習慣”の要素が非常に強く、また習慣こそが文化であるとも思えます。普通襟、シングルのジャケットでも、フロントカットをスクエアにすれば、3ツ釦-3ツ掛の服にすることは当然可能です。それにも関わらず、一般に3ツ掛けでないのは、やはり「習慣だから」というのが、存外正しいかもしれません。
最後にちょっとした思いつき
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2
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釦について色々と考えていましたら、ちょっとした思いつきが浮かびました。スーツ・スタイルの基本はフロックコートであるとも言われています。このフロックコート、元々はスタンドカラーで、8~12個程度のダブル、スクエアであると言われています(1)。
この襟を開くと、一般的なダブル・ブレスト(2)とになります。また、現代のフロックコートで、襟があるものはこの形状です。開いた襟のフラワーホールは第1釦の名残です。また第2釦は飾り釦です。勿論、スクエアです。
(1)をシングルにして、第1釦をフラワーホールに、フロントカットを丸く、第4釦を飾りにすればクラシコ(3)になります。このクラシコについて、Vゾーンを深く、ボタン数を減らせば、最も一般的な2ツボタンの服になります(4)。
この思いつきが正しいかどうか、かなりあっちこっちの資料を引っくり返して調べる必要があります。ただ、フロックコートから始まる樹形図を時系列で描いたら、何だかとても面白そうです。ずっと将来になりそうですが、こういう調べものもやってみたいですね。