ちょっと複雑な気分になる ivy
ivyの由来
最近、ivy やアメリカン・トラディショナルが流行し始めているようです。やはりクラシコに少々飽きが来たのかもしれません。最近では流行の若干変遷も早くなったような気がします。ivyとは何か、これについては van の石津謙介氏が確立しましたので、今では非常に分かりやすくなっています。
アイビー・ジャケット (ivy jacket) の由来には2説あります。一つはこのジャケットの発祥の地である米北東部の名門8大学が「蔦, ivy に絡まれているから」とするもの。もう一つは、フットボールの上記8大学間対抗試合を表す inter-univarsity league を略して ivy league としたからとするものです。どちらが正しいかは判然としませんが、いずれにせよ、非常に保守的で地位を表すものであるとされています。
元はスポーツ選手の代表者が公の場で身につけるブレザーが発祥ですから、ブレザーの場合には胸元に帰属を表すエンブレムが付きます。ファッションとしてこれを大々的に広めた Brooks Brothers という米国のメーカーは、このエンブレムも販売していました。
このジャケットは、由来通り、基本的には大変体格の良い筋骨隆々とした若い方に似合います。そのため アイビー・スタイルの流行は20代前後の若い方を中心に広まることが多いようです。日本での流行は1940-1960年で、私自身、このジャケットにはかつて随分憧れた口でした。しかし、私の父は、当時この服のご注文を受けても断っていました。このデザインや構造を嫌うテーラーがかつて日本には大変多かったのです。
ivy jacket = varsity jacket
1. versity jacket
2. ivy jacket
1.のジャンパーは、バーシティ・ジャケット (varsity jacket) と呼ばれています。大学対抗チームが身につけるジャンパーですね。
2.はアイビー・ジャケットの縮尺を左のバーシティ・ジャケットに合わせたものです。ディティールの差異はありますが、かなり雰囲気が似ていませんでしょうか。
構造は違うのですが、袖付けが方返しで、更にパッドを入れないため、肩周辺の雰囲気はかなり似ています。また、ボタン間隔の比率も一致します。ジャンパーの第1ボタンの位置 = ジャケットのフラワーホールの位置、ジャンパーの第2-4ボタン位置 = ジャケットの第1-3ボタン位置とほぼ同じになります。この両者はデザイン上、見た目、雰囲気、殆ど同じになるわけです。
日本のテーラーが長らくアイビーを好んでこなかった理由がここにあります。日本のテーラーは長らく「エレガントなシルエット」について研鑽してきましたので、いわゆる“I”型と呼ばれる「ずんどう」かつルースで、ジャンパーのような構造では腕の揮いようが無く、領分ではないとしてきたわけです。独特の雰囲気がありますし、身に付けやすく、何よりかつての米国に対する憧れもあって私は嫌いでありません。ただ、やっぱりちょっと複雑な気分になってしまいます。
どう流行するか
これらのアイビーの特徴から、カジュアルが似合う若い方に着こなしやすいと言えます。40歳を超えると、かなり難しくなってきます。そのためか、米国でもある程度、社会的地位を得ると身につけなくなるようです。一定年齢を超えてバーシティ・ジャケットを着るのが難しいのと同様ですね。この辺りも含めて、アイビーがどう流行するのか、ちょっと予測してみます。
元々日本でアイビーが流行したのは、自分自身を振り返ってみれば、米国の文化に対する極めて強い憧れがあったためかもしれません。GHQ〜在日米軍などのアメリカ人がこの服を来ており、また当時ジャズが非常に流行っていたのですが、ジャズマンも好んで身に付けていました。ただ、現在ではそのような米国に対する憧れは非常に薄くなってしまっています。特に出身地でもない大学等のエンブレムを付けることには、大変抵抗があると思います。
そのため、基本的なスタイルはクラシコか英国調を採用して、細部にアイビーの特徴を入れたものや、逆にアイビーを基本としながら、それをクラシコの方向に弱めたものが流行しているようです。実際、あちこちへと(敵状)視察に行ってきました所、アイビーやアメリカン・トラディショナルとクラシコの特徴を組み合わせたものが多かった様に見受けられます。
具体的な特徴の列挙
アイビーの典型的な特徴を表にして羅列してみました。勿論、これは典型例で、アイビーといえどもファッションですから、細部に変遷や差異があります。もしご参考になりましたら幸いです。
ジャケット | 肩 | ナチュラル・ショルダー |
ボタン | 3ツボタン2ツ掛け | |
袖ボタン | 2ツ | |
ポケット | 雨蓋有り *1 | |
シルエット | “I”型 (ずんどう,絞り無し) |
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ベント | フックベント | |
裏 | 背抜き | |
フロント・カット | 大丸 | |
下襟 | ノッチラペル | |
片返し *2 | 肩, 背縫い線, 袖付け等 |
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ズボン | シルエット | パイプステム piped stem *3 |
折り返し | ダブル *1 | |
素材 | スーツ | ウール/ウーステッド (梳毛, worsted) ペンシル・ストライプ |
ブレザー | グレイ・フランネル | |
その他 | シャツ | ボタンダウン |
*1 雨蓋は雨に濡れることを想定しているものなので、本来はカントリー由来です。
ズボンの折り返しをダブルにするのは、これも裾が汚れることを避けるためなので、これもカントリー由来です。
アイビーは元々、やはり若い大学生をターゲットにしたもののような気がしますね。
*2 片返しとは縫い目の付け方の方法を言います。
ジーンズが分かりやすいと思います。通常はステッチを入れる場合に使われます。左が片返し、右が両返しです。
*3 パイプステムとは、一言でいえば裾口に向かって細くなるだけの「真っ直ぐな」ズボンです。丁度、茎(stem)のような感じです。