スタイルが良すぎて
体に合わせることを前提にすると
最近の流行のデザインは体の線にぴったりとそわせて、細身の良い体型を強調するものです。ただ一旦、流行となると、だんだんそれをもっと強調させる傾向に進んでいきます。
最近、若い方には大変体型の良い方が多いです。肩幅は広く、胸板は厚く、腰は細く、お尻は大きい。基本的に男性と女性では、体型上の美しいプロポーションは異なりますが、基本的なところは同じです。
この大変体型が良い方が、最近流行のデザインの考え方にのっとって、体の線にぴったりあう服を作るとどうなるか。もっと見栄えが良くなりそうなものです。しかしなりません。むしろ見栄えが悪くなります。
腰を絞れない!
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1.は上記のデザイン図に、人の体の線を簡単に書いたものです。もし 1. の体型よりも腰が細いのならば、2. になりますから、腰のところが余ります。
腰のところで余るのですから、着心地は悪くありません。しかし体に「ぴったりした」デザインを強調する点からすると、まだまだ絞れそうです。ですが、これはもう、絞ることができません。
以前、このようなデザインはクラシコのほぼ限界だと書いたのですけれども、これは現在の流行の持っている「理想」と「服としての現実」の限界でもあるわけです。流行の意図を実現するには体の線に合わせる必要がありますが、それには「一定の限度」があります。
理想は A6
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右 3. は普通のシルエットです。その腰を絞れば絞るほど 4. に近づきます。4. にはどこか違和感がありませんでしょうか。確かに腰は細くなります。肩幅も広いです。
しかし、肩幅と腰の絞り幅のバランスが悪いです。更に肩の線が、矢印の方向へ向かって引きずりおろされるような印象が強くなっていきます。
紳士服のジャケットには最も美しく見えるシルエットというものがあります。そして、このようなシルエットを生む体型というのは、実は若い方の体型ではありません。
身長 | 胸囲 | 腰囲 |
---|---|---|
175cm | 94cm | 82cm |
180cm | 96cm | 84cm |
既製服の世界で言うところの A6、つまり30〜40歳の方に多い体型です。この A6 は既製服メーカ、国や時代によって異なりますが、現在、私自身は右のように考えています。
そのため、基本的にテーラーは、「この A6 の体型の方が体にぴったり合った服を着ている状態」を理想とします。人には様々な体型があるのですけれども、この体型を A6 の方が他の人に与える印象に、少しでも近づけていくのが基本となる訳です。これを考えた上で、流行を加味していきます。
ですから、体型が良すぎる方には、「敢えて体の線に沿わせない」などということもお勧めします。余り目立たない事ですけれども、テーラーメイドならではです。
ご質問も頂きましたので付記させて下さい 05'2/28。
理想がA6というのは、年齢や流行を超えた標準的な美しいサイズという一種の「例」と思って下さい。実際にこのような体型の方は極めて少数です。そのため、デザインなどで見栄えを調整して行く必要があります。
体型の良すぎる方の場合、体にぴったりした服を着ると却ってバランスが崩れることが多くあります。そこで、あえて腰はしぼらず他で調整を取って、体型の良さと見栄えのバランスを両立させる事ができます。「腰はしぼらなくても見栄えは良くなる」ということを大変意外に思われる方が多いものですから、上記のような書き方になってしまいました。誤解、ご不快などございましたら大変申し訳ありませんでした。