服が苦手でどうすれば良いのか分からない

自分は誰だ

服は言葉を使わず自分がどんな人間なのか表現する数少ない方法の一つです。自分自身そのものなので、自分と服が一致していないと自分自身の居心地が悪く、他人が見ても居心地が悪くなります。また、場所や状況にも服への要請があり、着て行く服がない=そこへ行けないという状況も出てきます。

そのため、自分が変われば服も変わらざるを得ず、転機を迎えたり、ハタと気がついた時や、一念発起したりすると、ワードローブの中を入れ替えたくなります。「全部捨てた」という方も珍しくありません。

問題は全部捨てる際、今まで服が苦手だったり、興味がなかったりした方です。本当に深刻に悩んでしまうらしく、その悩みのために入れ替えをやめてしまったり、それどころか服を変えられないから「決心も撤回」となったりすることもあるようです。

ということで、今回は、極度に苦手な方へ向けまして。前提は既製服,アウトレットモールでの調達で、どこへ行っても恥をかかないことが前提です。正しいかどうかはさておいて、取り掛かりのご参考になれば幸いです。

1. まずはズボンを決める

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服が苦手な方の最大の鬼門は恐らくズボンです。自分の足/下半身に自信を持つ方は滅多にないため、「どうせ何を履いても似合わない」と思いがちです。更にズボンは肌に密着するため素材/サイズの許容範囲が狭くなります。これらの結果、「太い,長い,何があろうと履き続ける」となりがちです。

そのため、まずはズボンが良いかもしれません。消耗が早いので最初に手当てすると便利が良いという意味合いもあります。ジーンズとチノパンは避けます。両者ともにワークウェアです。気をつける点は2点です。

まず1点目、「似合わないんじゃないか」は忘れる。ズボン一本だけで全体の印象を致命的に損なうことはありません。似合う似合わないは、ズボンの後に考えてください。流行を知っている必要もありません。そもそも既製品店には流行に即したものしか置いてないため問題になりません。

2点目、太さ/長さについて店員さんか誰かの意見を必ず聞く。自分の快適な太さと、他人から見て快適な太さのすり合わせが非常に大事です。

ズボンだけを何も考えずに選ぶのですから、安心して選んでください。

2. そのズボンを履いてインナーを決める

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次はインナーの調達です。1で購入したズボンを履きます。履かずに想像して服を選ぶのはナシです。直ぐ下にあわせるべきズボンがありますから、簡単にあわせられると思います。注意点はやはり2点だけです。

1点目、選ぶ際、目を細めるなどして「ぼんやり」みて下さい。柄があったとしても、ぼんやり見ると全体の色合いが分かります。苦手で慣れない場合、柄で錯覚して色合いを勘違いしてしまうことがあります。

右の図は青/赤/黄が混ざった色柄ですが、近くでみれば青が強そうです。しかし少し遠くから見れば白っぽい格子もかなり強くなり、更に遠くぼんやりと見れば紫っぽいと分かります。複数の色が混じるほど分かりにくくなります。

2点目、上下で重心の位置(上か下かナシ)を決めてください。暗い/濃いほど重くなり、明るい/薄いほど軽くなります。理屈はさておき、実際に試すと分かり良いと思います。重心がない場合、全体的に暗ければ縮んで見え、明るい/薄い場合には膨らんで見えます。色があっても理屈は同じです。目を細めてどっちが重いかだけ見れば問題ありません。

まず慣れないうちは、重心を決めて選ぶことが大事なのであって、「具体的に何を選ぶか」は大事ではありません。好みで十分です。好みで十分なのですが、重心(上,下,ナシ)だけは意識的に決めてください。

3. そのズボンとインナーを着けてジャケットを選ぶ

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1,2で選んだズボンとインナーを身につけて、ジャケットを調達に向かいます。ジャケットは見る人の正面にあり、面積が最も大きくなるため頑張ります。注意点は2点です。

1点目、必ず羽織って下さい。ジャケットは高価になりがちですが、試着が簡単です。羽織ってください。想像で済ませるのはやっぱりナシです。

羽織れば羽織るだけ、そのズボンとインナーにあわせる経験が増えますから、大幅に慣れていくはずです。また、店員さんも「目の前にサンプル」があるわけですから、適切に安心して助言できます。

2点目、重心を考えてください。理屈は2と同じです。重心をとらないことも選択肢の一つです。ただ、最終的には必ず重心をとる必要があり、ここでも重心をとらなければ、小物類/アクセサリでとる必要が出てきます。

右の図では色を殺して暗い/明るい(濃い/薄い)の組み合わせですが、色があったとしても事情は同じです。重い軽いで考えてください。

4. 靴, 靴下, ベルトを選ぶ

散らしてまとめる

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例によって例のごとく、1,2,3で選んだ服を着て靴,靴下,ベルトを選びます。スタイル全体のアクセントになるため、センスそのものを左右し、致命的な失敗も起こりやすくなかなか厄介です。簡単な例と幾つかの致命的なことに留めたいと思います。

全体のあわせ方の簡単な方法としては、靴,ベルト,ジャケット,アクセサリ,装飾,手持ちの何かなど、少し距離の離れたその他の小さい部分と色合いを統一するものがあります。これが最も簡単です。

靴の最大の注意点としては、靴とズボンの明るさに落差が強い場合、極めて靴が目立つことがあります。かなり強烈に目立ちます。その際、スタイル全体の印象と、靴の印象にズレがあると、そのズレも大幅に目立つことになります。靴を犠牲にする、手を抜く、逆に一品豪華主義もかなり危険です。

ベルトの太さ

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ベルトの注意点としては太さです。特に一般的なベルトは褐色なので、全体のスタイルが淡い色彩の場合、かなり目立ちます。注意して色々な太さのものを試して下さい。抉って見えたり、長く見えたりする筈です。

靴下は見えないようで色んな所作で目に入ります。時折白いものを見かけますが、どんな場合でも白い靴下は不可です。白い靴下はスポーツウェアか作業着です。色柄は靴,ズボン,インナー,ジャケットの色合いに近いものを1-2色含んだものがあわせやすくなります。

最後の一つ

こんな感じです。一度でも自分のスタイルをとり合えず確定してしまえば、後は個々のパーツの足し算引き算です。決して難しくありません。全体で色のバランスをとる、必ず重心をとることさえ気をつければ、少なくとも失敗することはありません。

ただ、実のところ、服が苦手な方にとって最大のハードルは「鏡」かもしれません。自分のイヤな部分を直視するのは抵抗がありますし、姿形だけでなく何かに失敗して自信を失ったときほど鏡を見るのがイヤになります。

最後の一つ、最も重要で苦手な方に最も困難なこと、それは「鏡を見る習慣」です。

鏡を避けたとしても他人は自分の姿を目にしてしまいます。鏡を見ず失敗するくらいなら、鏡を見て確認した方が正しいことになります。仕事でも何でも、必ずその仕事の対象を直視し、現状を把握し、そこに改善点や面白さを見いだすはずです。鏡を見る習慣をつくること、それだけで、服が苦手な方は苦手でなくなるかもしれません。

テーラーや仕立屋は、人の体型にとても注意を払いますが、その注意はその体型に最適なものを探そうとするためです。逆に言えば、体型それ自体には極めて無関心な職種かもしれません。テーラーにとって技術的に困難な体型もあるにはあるのですが、それは一般の体型への評価とかなり違っています。

どうぞお洋服で楽しんで頂ければ幸いです。少し興味が湧きましたら、どうぞお近くのテーラーにも足を向けて見てください。大丈夫です、とって食べたり致しません。

2010.04.21