御無沙汰をしています。ようやく今季も展示会の準備、生地の手当ても終わりまして、後は東京へお伺いするだけになりました。気がつけば、もう10数年も東京で受注会を続けていまして、何ともありがたいことです。ということで、2016年秋冬、今季の傾向のご紹介です。

主張しない生地と服、低ストレス

この数年、紳士服の業界(紳士服だけではないような気がしますが)で強くなっていると感じるのが、「スタイル優位からライフスタイル優位」の傾向です。たとえば、今夏、生地素材で特に人気があったのは

この二系統の生地です。ウール100%や、麻100%、綿100%といった生地は、「紳士服なら伝統的にこのような」というスタイルを作るのに最適な生地です。ですが、一定程度の流量は有りながらも、さほど目立ちませんでした。つまり、紳士服の伝統的スタイルや「こういうものだ」に余り縛られず、「現在のお客様の生活やお仕事」に最適化するという意図が強く出ています。要は服や素材が「主張しない方がいい」という傾向です。

生活様式に矛盾がなく、服に合わせる必要の度合いが少なければ少ないほど、ストレスを感じる度合いは低くなります。たとえば、「余りにもカジュアルすぎる」のは生活様式と矛盾が出ますから、ここにストレスがあります。他方、「服とはこういうものだ」という固定的なスタイルを優位にすると、やはり生活と矛盾が出ますからストレスが生じます。この二つのバランス取りが、お客様も紳士服業界も、格段に洗練されてきたような気がします。

16AW のコート地

そのため、冬服の傾向も同様にライフスタイル重視です。今季、生地メーカー, ミルから、さまざまな提案がありました。まず、面白いと思ったのがコート地です。

強打込, 高毛足中打込, 中毛足弱打込, 長毛足

それぞれ現物で仕入れたものですが、ライフスタイルへの従属の「強<>弱」がはっきり出ています。最初のメルトン風のものは、非常に肉厚でとても打ち込みが強く、重いのですが非常に高耐久です。これは「ありとあらゆるシーンで着用できる」「使い込む」用途を想定しています。たとえば、厳寒時の通勤時にも使う、下にスーツやジャケットを着けずにカジュアルにも使う、とにかくありとあらゆるシーン、デザインによっては日常使いでも「摩耗するという心配/ストレスなし」で平気に使えます。

Once Upon in America 1Once Upon in America 2Once Upon in America 2

実はこういう着用、1930年代の映画などに端的なのですが「本来のコートの使い方」そのものであったりします。日本でもかつてはこのように使うのが普通でした。何度も使い、いつでも使い、とにかく「損耗するストレス」なく、そしてそれでもシャレる、コートの使い方の一方の極として、「リアルな日常のライフスタイル」に従属するものとしての衣服が強く表れるというのは、ある意味でとても健全で喜ばしいと思ったりします。ちなみに最後のコートは、昨年、当店でお仕立てしたものです。

他方、毛足の長い方の生地は、さほど強靭さはありません。ただ、「見た目にも軽くて暖かい」傾向が強く出ている素材です。暖かそうで、なおかつ軽そうに「見える」という点を重視するのが面白く、ファッション性が高いとも言えます。特に最も毛足の長いもの、こんなの今まで滅多に提案されることはありませんでした。一昨年、Zegna 本国法人の社長がこのようなAgnona生地を着用しているのを見て、何とも面白いとは思っていましたが、まさか普通に提案が出てくるとは思いもしませんでした。「ライフスタイルへの従属よりもファッション性」という意図が強く出る生地です。これら現物生地を、展示会ではお持ちしたいと思います。

16AW のスーツ地

ただいま、頑張って書いてます...。

2016-09-05