手縫いと機械縫いの見分け方

服はパイプ

手縫いなのか機械なのか、この見極め方のご質問を頂きました。最近、お客様からも同様の質問を頂きましたので、その見極め方について書いてみたく思います。ただ、非常に写真では分かりにくく、余りご参考にならないかもしれませんが、一つ挑戦したく思います。

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まず、服は一枚の布でできておらず、表/芯/裏の三層構造になっています。表と裏の間に微かな空間があり、湿度による収縮を吸収したり、生地特有の風合いを生かしています。また、服は曲線でできているので、このような中空のものが湾曲している状態になっています。

そのため、曲線をもとの直線に伸ばした場合、外周の方が長いものを無理に縮めたのと同じく、シワになります。もし、これが一枚の布でできている場合、外周と内周の差はありませんので、べったりと真っすぐに伸びてしまいます。

手縫いと機械を見分けるには、このようなシワの有無の確認などが一番簡単だと思います。

服の裏側

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服の裏側を見てみます。この二着は、片方が接着芯で片方が毛芯を使った手縫いです。

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左のジャケットは裏が大変に奇麗に見えます。各Aの部分が分かりやすいと思います。左側のAの部分は大変ぺったりとしていて、滑らかです。拡大してもやっぱり滑らかです。

次に、右側のAの部分はどうでしょう。縦に真っすぐに奇妙な波が走っています。この波は、生地の中の“芯“をトメる縫い目線です。大変に細かいのですが、拡大すると赤線にそって、小さな縫い目が見えると思います。

左の青いジャケットは、そのような縫い目線がないのですから、中に毛芯はありません。接着芯の機械縫製ということになりますね。この奇麗さは「紙きれ」の奇麗さと言えるでしょう。これだけで、右のジャケットは、少なくとも毛芯が入っている事がわかります。手縫いか、毛芯を使った機械縫製のいずれかです。

襟の裏

次は襟の裏側です。この写真では折目が「山」に見えます。けれども、襟の裏側ですので、実は「谷」です。どうしてこんな風に写るのか、写真は相変わらず下手で申し訳ありません。折目線の右側が、ちょうど襟の真裏になります。この三種類は、手縫・機械・接着のいずれかです。どれがどれだか分かりますでしょうか。

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1.は、極めて裏が奇麗です。ただ、折れ目がついているだけになっています。これは完全な機械縫製+接着芯のものです。接着剤で布を止めているため、一枚きりの紙と同じでぺらぺらになります。見た目は滑らかですが、これは良いことではなく、良い生地のなびきや風合いは完全に死んでいます。

2.は、少々ごわごわとした感じがしています。これは表と裏の間に空間が残っている事を意味します。つまり、これは毛芯を使っていて、機械縫製です。

3.は奇麗ですが、1. よりは柔らかく見えます。柔らかく見えるというのは、中に空間があることになります。中に芯が入っているということになりますね。しかし2よりも奇麗に見えます。これは手縫いです。手でハ刺しを入れ、調整しながらトメているため、見た目が機械よりも奇麗になります。

ただ、3.の奇麗さは、テーラーによって個性が出ます。裏も表も完全に奇麗にしようとするテーラーもあれば、裏を多少犠牲にしても表の滑らかさを出そうとするテーラーもおります。手縫いであれば常に裏が奇麗かと言えばなかなか一概には言えません。ただ、一般的には機械ハ刺しよりも手縫いの方が裏も奇麗になります。

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ただ、2.と3.ではもう一つ違いがあります。3では、写真の最も右側の当たりに、星のような”点々“が微かに光ってませんでしょうか。これはハ刺しの縫目です。拡大して分かりやすいものを赤で囲ってみました。2では写真に写らず、3では写真に写るというのは、縫目の細かさが違っている事になります。機械のハ刺しはとにかく縫目が細かいのです。

ハ刺しを機械で縫うというのもなかなか難しく、手縫いでハ刺しを入れられる職人がミシンで縫うだけですから、風合いはかなり優れています。ただ、それでも手縫いには勝てない微妙な風合いな差と言うものが出てきます。

普通は機械で減量接着

これは私の想像ですが、市場で出回っている既製服で手縫いのものは相当少ないと思います。手縫いとあっても、多分「何処か手縫い」という事を意味する可能性も高いです。被服業界は残念ながらこの手のレトリックをよく使います。100%手縫いというのは、滅多に存在しないと思います。

普通、高価な既製服でよく見るのは、毛芯と接着剤の併用です。毛芯を入れておき、接着剤で仮止めをして、その上を一気にミシンで縫い上げて行きます。ただ、高価なものであればある程、接着剤の量は減っています。ただ、接着剤を使う以上は機械縫製になる理屈です。

やはり、市場で通常手に入る既製服は、高価なものでも、減量接着+毛芯+機械+「何処か」手縫いという状態になっていると思います。その中で、極まれに完全手縫いのものがあるかもしれません。ただ、その値段は、オーダーの手縫いよりも高価なものである可能性が高いですね。

どうでしょう、ご参考になりましたでしょうか。

2005.02.20