ウエスト直し1500円?/8000円?

ウエスト直しのお値段

ウエスト直しの価格は二種類あります。当店の場合、直す服が既製服であれば1500円、手縫いオーダーのもので1800円。もう一種類(三方詰)のウエスト直しは、それぞれ6000円、8000円です。当店の価格は安い方ですから都心へ行けばもっとするかもしれません。

しかもここまで価格差があっても、理由が少し難しく、価格が違う理由をなかなか説明できません。また、この価格でも手間が相当かかりますから、普通、修理店の職人さん方は三方詰を勧めませんし、仕事を受けたがりません。そもそも扱っていない所もあるでしょう。

この二種類、直し方が全く違うため、実に4〜5倍の価格差があります。これは、ウエストを「一方(一か所)」で直すか、「三方(三か所)」で修理するかの違いです。普通は「腰の後ろだけ」を詰めてウエストを絞りますが、これではお尻がぶかぶかになる事があり、これを避けるための三方詰です。

三方詰

三方詰

三方詰(さんぽうづめ)とは、ウェストを細く直す時に、腰の後ろだけで直さず、三か所でサイズをつめる事を言います。ジーンズが分かりやすいです。右のジーンズの矢印の部分を切り詰めて、ウェストを細くします。

既製服を買われると(特に西欧ブランドの物を買った場合)、ウェストが大きすぎて小さくしなければならない事がままあります。ここで、三方詰にした方が良いと勧められた経験の有る方も見えると思います。三方詰にすると、修理価格が跳ね上がりますから、納得のいかない方も見えるかもしれません。しかし、これにはちゃんとした理由が有ります。

結論から言えば、1cmや2cmでは三方詰の必要はありませんが、これ以上つめる場合、三方詰をしない限り、「ウエストは細くなっても、お尻がぶかぶかに余る」非常にみっともない結果になります。

パンツの仕組み

ジーンズ 型紙

テーラーのサイトでジーンズを使うのもどうかと思いますが、分かりやすいと思われますのでご容赦下さい。

このよれよれのジーンズを、一般的に使われる型紙(の模式図)で表したものが右の図です。よく見ると、裾は真っ直ぐに平行であるのに、ウェストは斜め、ちょうどお尻の方へ向かって高くなっています。しかもお尻の部分には「し」の字に湾曲がついています。

これは、「湾曲」でお尻の大きさを調整し、この結果歪んでしまうベルトラインを「傾斜」で真っ直ぐに戻す、これらの目的のために付けられています。ちなみに、湾曲が大きくなればなるほどお尻は大きくなります。

一見分かりにくいですが、実は非常に簡単な理屈です。

お尻は円錐

展開図
円錐
二つ

右の図は上の模式図を二つ並べたものです。これを縫い合わせれば、パンツの後ろ身頃が出来上がります。ちょうど、矢印の所を縫い合わせれば、腰の真後ろにになるというわけですね。

ここで、右の図の矢印のところを縫い合わせると、円錐の展開図を縫い合わせるのと同じ効果が出てきます。円錐の展開図の V のところが U の形になっているだけで、これは全く円錐の展開図と同じです。

と言う事は、この切り込みが大きくなればなるほど、出来上がる円錐の高さは高くなり、パンツで言えばお尻の入る余地が大きくなることになりますね。

三方詰にせずにウェストを細くすると

腰の裏だけで縮める

こういう理屈ですから、もし腰の裏側の「一方」でウェストを細くするとどうなるでしょうか。点線部分が元々の開き幅です。ウエストを縮めようとして、切り詰めると U の部分が開いて、 V の用になり、切り込み幅が広くなってしまいます。

その結果、円錐の展開図の切り込みが開いた事になりますから、ウエストは細くなっても「お尻が大きく」なってしまいます。頭に円錐の展開図を思い浮かべ、その切り込みが小さいときと大きいときでは、どちらが円錐の高さが高くなるかを想像していただければ、簡単だと思います。

切り込みが小さいほど円錐の高さは低く(=お尻は小さく)、切り込みが大きいほど円錐の高さは大きい(=お尻が大きく)なるでしょう?。

ベルトラインのずれ

最後にもう一つ問題が起きます。「一方」でウエストを小さくしてしまうと、お尻の側は下に押し下げられてしまいます。これは相当みっともないです。自分でパンツのお尻側をつかんで押し下げてみて下さい。その格好で外を歩きたいです?。一方で詰めると、こう言う事も起きてしまいます。

これはお尻がぶかぶかになる事よりも、もっと簡単な理屈です。

90°型紙 90°

「もともと真っ直ぐになるように」傾斜がついていたのに、切り込みを入れると、湾曲とベルトラインの「傾斜角が変わって」しまいます。ウエストを小さくするために切り込みを入れると、湾曲とベルトラインを作っていた傾斜角度が、「必ず広く」なります。この結果、ベルトラインは凹みます。

右図をもともとのパンツの模式図だとします。普通、湾曲部分と傾斜の作る角度は90°になるように作られています。当然、90°と90°の物を繋げば180°ですから、ベルトラインは真っ直ぐになります。これならばベルトを通して身に付けても、何の問題もありません。というよりも90°でなければ、真っ直ぐになり様がありません。

120°型紙 120°

では、ウエストを細くするために、切り取って傾斜を変えるとします。こんなに切り取る不調法はありえませんが、とりあえずしたとします。すると、切り取った結果、湾曲と傾斜の作る角度は120°になりました。ならば、これを繋いだ場合、120°+120°=240°、つまり V 型に抉れます。

腰の裏側(お尻側)が抉れれば、当然の事ながらパンツはお尻の方へ向かって押し下げられます。しかも後ろが押し下げられるだけでも問題が有るのに、服と言うのはバランスでできていますから、相対的にお腹の側が上がった事になります。・・・ズボンの前を持ち上げて、なおかつお尻を押し下げた様な印象になります。

普通のウエスト直しはせめて2cm〜3cmまで
それ以上は三方詰

つまり、「腰の裏」を切り取ってサイズを縮めるのは、なんとしても1cm〜2cmに収めたい訳です。これ以上切り取ってしまうと、傾斜角が90°から離れ過ぎてしまいます。そのため「腰の裏」からの切り取りは1cm〜2cmで押さえておき、残りの切り詰め分は二つの「腰の横」から取る「三方詰」が必要になるわけです。

ウェストのサイズを「一方で大きく絞る」と、パンツはお尻側に下がって、ヒップは中身も無いのにぶかぶかになる、こういう訳です。幾ら何でもみっともないです。時々、こういう修理を見かける事はありますが、一言で言えば失敗だと思うのです。

ですから、少し高くなりますけれども、大きくウェストのサイズを直すときは、三方詰めをお勧めしたいのが本当です。本当なのですが、ウエスト直しで6000円〜8000円と言うのは中々納得してもらえず(当然かも知れません、安いものが一本買えてしまいますから)、そのためここで書いてみました。

2002-2004頃