2010年秋冬の生地傾向 - 限界

大人しく穏やか, 繊細な古色、回帰の限界

例年、Zegna社の生地で流行傾向を見ています。これはZegna社の進取性が強いということもありますが、実は最も早く当店で揃うサンプルがZegnaだという理由もあったりします。今季は Holland & Sherry, Zegna, 三星毛糸の順番でサンプルが届き、Zegna は久しぶりに2番手です。

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ただ、Holland & Sherry で真っ先に届いたものが Traditional Country Suiting であったり、三星毛糸は定番的な傾向が強いため参考に出来ず、やはり Zegna になります。

Zegna Anteprima 10AW

Anteprima_10AW

Anteprima 09AW

Anteprima_09AW

Zegna の Anteprima は表紙から中の提案まで、とても良く統一されています。09AWの表紙も並べて見ました。今季の特徴、端的には「大人しく穏やか, 繊細な古色」です。

全般的に馴染み深く大人しい色合いで締められていますが、太く単調な色柄では野暮,古ぼけた印象になりがちなところ、チェック,ストライプともに繊細で起伏感のある強めの柄を混ぜ、繊細でセンスの良いものになっています。

全般的に馴染み深く控えめなものが多く、伝統回帰的な傾向が行き着いた雰囲気があります。これ以上、色柄の傾向として過去に戻ることは難しくなるかもしれません。また、生地質としては全体的に若干軽くなっています。

the excerpts on Anteprima

Anteprimaから一部を抜粋して見ました。

15milmil15 Centennial - Zegna 100周年記念

Zegna Centennial

centennial

Zegnaの宣伝のようになってしまいますが、今季はZegna社の100周年記念になります。そのため少し面白いノベルティや特殊なバンチが出ており、それが 15milmil15 Centennial です。

このバンチにはとても面白い特徴があります。収録生地がまるで「Zegnaらしく」ありません。一見非常にオーソドックスで地味、古いタイプの色柄です。しかしやはり繊細な色柄で、洗練されています。地味,古いタイプながら繊細で洗練、むしろ 15milmil15 の生地質に相応しいかもしれません。

100周年という歴史性を強調した色柄といえるかもしれませんね。

Holland & Sherry - Highland Glen

Holland & Sherry /
Highland Glen 拡大

今季、最も早かった生地サンプルは Holland & Sherry の Highland Glen です。副題は Traditional Country Suiting。凡そ古参のテーラーや年配の方であれば、「詰まらない,野暮,見飽きた,懐かし過ぎる」という色柄が揃ったジャケット,スーツ生地のバンチです。何というか意地,矜持を感じる色柄です。しかも少し高価です。

縮小よりバンチ全体の拡大写真の方が雰囲気が掴みやすいかもしれません。かなり重くざっくりした伝統的色柄, 生地質です。1900年代前半を舞台にした映画などの雰囲気そのものかもしれません。今年は新柄といいつつ、このタイプの生地, Zegnaでもこの傾向が強く出るようです。

名探偵ポワロ - 猟人荘の怪事件

大吟醸と純米酒, ブランデーとウィスキー

今季の大まかな特徴として、豪奢品と上質品の対立のようなものを感じます。お酒で言えば大吟醸と純米酒, ブランデーとウィスキー。いくら安価になったからと言って、大吟醸やブランデーを毎日飲むのはかなり疲れます。日常をできる限り快適に,安定して,長く,疲れず生活するには、少し向きません。

他方、日常からの乖離、非日常を味わうにあたって、普通のお酒では荷が重く感じます。記念,ご褒美,一生に一度、何かの節目には、日常から乖離した何かが必要です。それがなければ毎日が味も素っ気もなく、何とも詰まりません。

そのような傾向が、何となく今季は「対決」とも言えるくらい奇麗に分離したような気がしますね。

2010.8.30