Scabal

ハダスフィールド生地を供給するベルギー企業

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BESPOKEN

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どうしても新柄生地のご紹介となると、色気が強く,進取性に富むZegnaが中心になってしまいます。今回は今まであまりご紹介しなかったScabalにつきまして。Scabalはベルギー企業ですが、主に英国ハダスフィールドで自社生産する生地を供給しています。そのためScabal生地の多くは英国生地になります (綿系統は多分イタリアです)。

ZegnaやDormeuilなど欧州の大手生地商/メーカーと最も異なっているのは、Bespoke部門に対する注力でしょうか。自社でもビスポーク(いわゆるフル・オーダー)部門を有しており、その名も「BESPOKEN」という雑誌のようなものまで刊行してしまいます。

生地質もこのようなスタンスが如実に現れていて、Zegnaが色気優位とすればScabalは縫製優位、テーラー/仕立屋に扱い安く、取り回しのしやすいものが中心です。目付け/織密もしっかりしていて、とても仕立てやすい生地です。そのためか比較的高価な部類のものが多く、以前ご紹介したような、かなり豪奢な製品も広く調えます。

…1938年創業,ベルギー企業で英国生地を産しているとすれば、いかにもエルキュール・ポワロが試していそうです。ベルギーへの愛国心に溢れながら英国に亡命、しかも贅沢趣味のポワロのこと、フィングラーさんのところでScabal生地を矯めつ眇めつ検討したかもしれません。いかにもありそうで、何だかおかしく思ってしまいます。

ポワロと言えば、かつてNHKで英国製作の「名探偵ポワロ」が放送されていました。このドラマは服が非常に凝っていて、ポワロ,ヘイスティングス大尉といった主要登場人物のみならず、脇役までも良い仕立て,洗練されたシルエット/デザインの服を身に着けていました。登場人物の社会的地位や人格までもが、カジュアルさえ服でちゃんと表現されているようで、如何にも英国的で面白く思います。

そのせいか、お客様の中にはポワロのスタイル支持派, ヘイスのスタイル支持派があるのは当然として, ジャップ警部のスタイル支持派,それどころか第x話の脇役〜のスタイルが良いなど、色々な方がお見えになります。

BESPOKEN

…閑話休題、Scabalでした。当店はScabalのサンプルは一通り揃えるものの、取り扱い量はとても少なく、Scabalから見ればあるのかないのか分からない程度だと思います。正規取扱店だったか違ったか、どうなんでしょう。それにも関わらずDMと雑誌「BESOPOKEN」を分けて貰いました。気前が良いです。それらをサイト上で紹介してしまいます。駄目だと言われなかったので、きっと大丈夫です。

Scabalが発行する雑誌「BESPOKEN」は60頁以上あるしっかりしたもので、中身は全て英語です。写真では分かりにくいですが、タイトルは「Spring-Summer 2010 Trends, The World of Tailoring」、まさしく仕立屋のためにあるようなタイトルです。

BESPOKEN p33.
the Bespoke suit process

この雑誌では変な所に感心してしまいました。ビスポークスーツの工程を紹介する33頁, 右の写真です。仕立職が仕掛かりを試している何の変哲もない写真です。

誰に習うわけでもなく、古今東西、必ずこういう姿になるようです。この姿は「どういう風に服が進みたがっているか」を確認するもので、指を中で曲げたり伸ばしたりします。今も昔も何処であっても世の中の仕立職はみんな同じ姿です。何だか面白く思ってしまいました。

目次を少し抜粋してみました。

  • Bright future for tailoring
    Scabal社からのメッセージです。私はScabalのファンになるかもしれません。スタンスが明らかに少数派だと思います。
  • The 'slow suit' world, Bespoke gifts for all
    ファスト〜への反抗を感じます。
  • From M to O
    まさか縫い針やミシン針の用語解説まであるとは思いもしませんでした。
  • Old tradions meet a new generation
    世代交代, 日本の老舗, 名古屋のテーラー神谷さんが紹介されていました。

消費者の方と業界を両方想定するような珍しい雑誌です。

DMと価格

Tailoring with a Twist

DMでの今春夏Scabalのコンセプトは "Tailoring with a Twist" であるようで、生地は英国の空をモチーフに色柄を揃えたようです。青空と曇り, あらゆる青が, ミントグリーンからラベンダー, 色とりどりに照らされて, 無数のチェックは何処にでも、といった感じの詩的な紹介があり、イタリア生地に比べ抑制が効いた感じの色柄風合です。

DMではスタイルの提案も掲載されており、スタイルは英国というより、大陸的で柔らかいタイプです。なんだかDM全体のデザインも近代的なイメージが強く、「手術台の上のミシンと蝙蝠傘」を連想してしまいました。

これがScabalの考える「a twist」のイメージなのかもしれません。生地それ自体が質実で馴染みあるタイプの生地だけに、余計そんな気がします。

…確かにScabalの生地は好みです。特に春夏ではモヘア生地に良いものがあり、是非作って見たく思います。ただ、作って見たい生地が高価で困っていたりします。どうしたものでしょう、悩んでいます。

たまたま気に入った生地が高価だったというだけで、実はそれほどScabalの生地は高価なものばかりというわけでもありません。当店ではSuper 100's Wool 100% で3.2m 5〜8万円程度です。Zegna Anteprima が6〜10万円です。但しScabalでは上にキリがありません。

もし自分のために作るのでしたら、やはり仕立屋向きの扱いやすい生地が多いですから、オーソドックスに英国風でしっかり作りたくも思います。ただ、少しラペルは太めに。

自分が若ければ、この提案にあるような細身で柔らかくなびきの強いもの、但しもう少し女性的に、などなど、ポワロだったらどう悩むのか、そんなことまで考えてしまうScabalです。

最後にScabal Japan さんには少し希望したいことが。BESPOKENには日本語の抜粋翻訳がついているのですが「抜粋すべき箇所」が間違っていると思います!。絶対そう思います!。

2010.3.18