段々と重くなる生地

メーカーの表示

以前にも書きましたけれど、生地の品質は「密度(目付)/繊維の長さ/繊維の細さ」で決まります。一般に繊維の細さについては Super表記が使われています。本来は繊維の長さも推測させる表記でしたが、今では繊維の長さと Super表記はあまり関連しなくなりました。

そうなると、品質の表示で問題になってくるのが「密度(目付)」です。これは一般に単位量あたりの重さで間接的に表現しています。「Super表記が大きい(繊維が細い) + 重い = 密度が高い」となる理屈です。この重さ、実は殆どのメーカーが公開しています。

Zegna の目付と構成

2005AW スーツ 3.2m
/ Wool 100%
品名 目付 g 価格
15 milmil 15 250 ¥210,000
Trofeo 290 ¥120,750
Heritage 290 ¥94,500
Traveller μicro 310 ¥94,500
Electa 340 ¥94,500
Traveller 310 ¥89,250

例えば Zegna です。代表的な銘柄と目付、価格はこのようになっています。今更ですが、Zegna社の準備商品は適切だと思います。(価格は新柄のものです)

15 milmil 15 は Zegna社の最高級品です。Super表記はありませんが、かなり繊維は細いものになっています。繊維が細く目付が重ければ、当然高価になります。15 milmil 15 は目付が250gですので、それでも強さはありません。これは完全にいわゆる高級品/豪奢品の範疇に入ります。

Trofeo は 15 milmil 15 よりも目付けがありますが、価格は6割程度になります。つまり、15 milmil 15 よりも糸が太い事になります。豪奢性と実用性のうち、15 milmil 15 よりも実用性を持たせたものと言えます。ただ 290g ですので、高級品的な色合いが強くなります。

以下、Heritage, Traveller μ, Electa と重くなりますが、価格は同じです。つまり、糸を太くしているという事になります。また、目付が良ければ、当然丈夫になります。実際 Electa/Traveller はビジネス・スーツに向く柄が多く、ファッション性よりも実用性重視になっています。

Super 表記と目付

右下の表は、今年の新柄生地価格の一部です。各メーカーには無数の商品がありますが、各メーカのうち、目についたものを取り出してみました。

2005AW スーツ3.2m / wool 100%
品名 super 目付 g 価格
William Laycock 90 315 ¥33,600
Canonico 120 280 ¥33,600
Tallia Di Delfino 110 315 ¥37,800
Garlanda 110 420 ¥37,800
Arthur Harrison 90 375 ¥40,320
William Halstead 90 350 ¥50,400
Difabio 100 350 ¥50,400
Cerruti 110 300 ¥60,480
Tallia Di Delfino 120 290 ¥60,480
Guabello 110 400 ¥60,480
Loro Piana 120 260 ¥67,200
E Thomas 130 320 ¥77,280
Dormeuil 'Optima' 120 340 ¥93,000
Dunhill 120 360 ¥117,000

以前、Super表記は運用が余りに杜撰に過ぎ、既に品質を表す指標では無くなりつつあると書きました。実際、Zegnaは当てにならない Super 表記を止めてしまい、目付だけの公表になっています。

価格は糸質・希少性・ブランド名称・デザインなどによる人気で大きく変わるため、このような羅列には意味が無いのですが、Super表記と価格にあまり関係がないのが見て取れると思います。

ところで、この価格帯の中間部分(¥50,000〜¥60,000)は、メーカーにとって最も流量が期待できる部分です。そのため品質のバランスが良くなります。その部分のSuper表記と目付が平均110前後、350前後であるというのは面白いと思います。

私自身の経験上でも、一概には言えませんが、秋冬で実用性と着心地のバランスがとれた生地は、Super表記で110/目付で350ですから、若干軽い傾向があるものの、これらの価格は正直だと思います。

Zegna vs ?、最近の傾向

世界的に見ても、最近ではZegna社の一人勝ち状態です。そこで各メーカもかなり工夫を始めています。例えば、高級品の部類に入る 英 Dormeuil 'Optima'や'Amadeus' はかなり良い生地です。色柄も洗練されており、品質もかなり良いと言えます。一時期、ドーメル社は商品名を変えはしたものの、大手量販店に生地をおろしたため、日本では随分と評価を下げてしまいました。徐々に復活しているような気がします。

Zegna社の最近の傾向は、全体として、ファッション性の強化にあるようです。例えば Cashco は カシミアと綿の混合素材ですが(Cashmere+Cotton)、今年からカシミアの構成割合が増え、価格もm単位で1万円近く高価になっていますが、ファッション性を重視しています。Travellerも同様で、繊維を細く、エレガントさを増したものが増えています。

他方、Zegnaに対抗する種々のメーカは、全体として繊維は細く、かつ目付を増やして耐久度を増し、全体的に実直な品質の向上を目指す方向にあります。今年の新柄では英国/イタリアを問わず、全体に目付が300を下回るものは殆どない状態になっています。また、目付が400を超えるものも多くあります。重くて、色柄も英国調の生地が随分と多くなっているようです。

メーカーの方も、今年は洗練したアメリカン・トラディショナル、英国調やカントリー調、実直で耐久性を重視した動きに添っているようです。

2005.9.30