新しくデザインを起こしたパンツ

今年の初めて

今年をまだ半分も折り返していないのに、あまり経験のないご注文を多く頂いてしまいました。例えば Escorial/エスコリアルウール 100%です。初めて入手して初めて触った特殊な生地ですが、何とも難物でした。

風合いが高級生地そのものにも関わらず、極めて強撚です。強撚といえばポーラなどが代表的ですが、そのようなシャリ感はまるでなく、滑らかそのものです。熱での伸縮率が非常に大きく、とんでもなく伸びる上に強烈に縮みます。

地のし (生地全体にかける最初のアイロンワーク) がやけに簡単でした。しかし、直ぐに地のし前に戻ってしまいます。…どんな生地でも元に戻るものなのですが、この伸縮率は頭抜けています。

クセ取り (紳士服特有の曲線を保持して縫製するためのアイロン掛け) も、やけに簡単だと思っていると、やっぱり直ぐに元通りに戻ります。同じような織密,重さの生地の範疇を超えて伸びる上に縮みます。ヤナギみたいな生地です、これは。仮縫い段階ですら何やら一筋縄では行かないような予感がある生地でした。

新しい独自のデザインのご注文も何着か頂きました。今回はその内の一点、ズボンにつきまして。かなり独特のデザインです。

とにかく全てが曲線

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このズボンは、直線が一カ所もないズボンです。手縫いズボンですからシルエットに直線部がないのは当然ですが、縫目線やディティールも全て曲線です。

横縫目は通常、ズボンの逃げ(補正の適否) を見る箇所にするほど直線ですが、これは着用で線が奇麗に外へ流れるよう、最初から曲線になっています。また、ポケットも縦ポケットではなく、いわゆるLポケットです。

尻ポケット(ピスポケット)は傾斜を加えて、Lポケット〜尻ポケットに掛けての湾曲が繋がるようにデザイニングしています。また、古いやり方を復活させてバルカのように弓形に湾曲させています。

乗馬ズボンやゴルフズボンを参考にしたものの (ポケットを斜めに付けるのは乗馬ズボンなどに多い工夫です)、通常のズボンでこういう工夫は初めてでしたので、別に試作品を一本作ってしまいました。何とも手数の多いズボンになりましたが、とても面白いものが出来上がりましたように思います。

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裾にスポーツウェアにあるようなチャックがついています。スポーツウェアも手縫いが一般だったりした時代がありました。

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正面からです。ジーンズのようなLポケットであることが分かりよいと思います。

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赤線が尻ポケットです。腰に対して「平行ではない」ことがお分かり頂けると思います。

このズボンの制作に当たっては、ご注文主より大まかなご指定と「後は任せる」とのお言葉だけを頂きました。任せられてしまいました関係上、何としても良いものを実現せざるを得ず、何ともシャレ者な上にお買い物が上手です。

とにかく全てが曲線 +更にスポーティに

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基本デザインは同じですが、こちらは更にスポーティです。ゴルフパンツをベースにしたカジュアル/タウン用ズボンです。こちらはアウトポケットがありますが、これも実用重視で傾斜が付いています。

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アウトポケットは、前から手を突き刺しやすいような角度にしてみました。試作品でどうこうと色々角度を試してみました。

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こちらも同様、尻ポケットがウェストに平行になっていない...のですが、なぜか写真だと平行に見えてしまいます。

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ズボンの前を止めるボタンも少し変わっていますが、実は当店の元々の付け方です。特にご指定のない場合、手縫いではずっとこの付け方です。

Have Fun with "Your" Designing!

テーラー/仕立屋は、少なくともデザイナですから、当店に限らずデザインに関する大抵のご要望は受け付けていると思います。挑戦的なデザインは、慣れないとなかなかご注文も難しく上級者向けではありますが、馴染み,お近くのテーラーで色々と楽しんで頂けましたら幸いです。

ただ、お店によって色々な制約がありえます。生地種とデザインの相性がある, 時間が通常よりも掛かる, 受注時期に制限がある等、特に納期に関しては制約があることが多いと思います。これらズボンも、とてもお時間を頂戴してしまいました。

2009 5/31