フロント・カット

フロント・カット

今回はフロント・カットについて書いてみたいと思います。この4着は全て最近のものですが、それぞれ特徴的なデザインをしています。直近の流行傾向を取り入れたとしても、まるで違う印象のジャケットが出来上がります。それぞれの差異は小さいのですけれど、それが集まると大きな印象の違いを生んできます。

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人台が服にあっておらず、見苦しい点が見えるのはご容赦ください。フロント・カットとは、右図矢印 (打ち合わせの最下部) を言います。上の写真のうち、4はダブル・ブレストですから当然フロント・カットも明らかに違います。1,2,3 は全て同じフロント・カットです。このフロント・カット、段々と大きくなっていく傾向があります。

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服飾用語ではこのフロント・カットにまで名前がついています。右下の図は、典型的なフロント・カット4種類を簡単に図示したものです。Aは square(上図4), Bは semi-square, Cが universal(1,2), Dが traditionalやcut away(3) と呼ばれています。日本ではDを「大丸」と呼ぶことが多く、私も大抵はそのように呼んでいます。ABは通常ダブル、CDはシングルです。ただ、半径何cmの円弧から大丸という風に定義がある訳ではなく、ほとんど感覚上の問題になっています。

このフロント・カット、ちゃんと流行の変遷があります。今から40年程前、1960年代前後、アイビー・ルックというものが流行ったことがありました。5月24日に亡くなられた石津健介氏が、VANを通して紹介したものです。これは当時きわめて流行し、一定年齢以上の方には一種独特の郷愁があります。このアイビーはアメリカン・トラディショナル(American Traditional, アメトラ)の一類型ですが、アメリカン・トラディショナルは一般に大丸のフロント・カットです。

A.

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B.

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C.

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きわめて微妙ですが、Aが現在のフロントカットです。右二つは今までの流行のものです。 B は約15年前、Cは5年ほど前の既製服です。ずっと長く標準的なフロント・カットだったという訳です。数年前から徐々に広くなっていき、右二つと比べて随分大きくなっています。ただ1950〜60年当時のアメトラやアイビーは、これよりも更にフロント・カットが大きかったですから、まだ大きくなるかもしれません。

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フロント・カットは単なるカットですが、大丸のカットに、絞りがない「箱」のようなシルエットを組み合わせると、典型的なアメトラの雰囲気になります。アメトラは基本的に全体が「ずんどう」で、イタリアン・クラシコとは随分違います。ところで、車中ラジオを聞いていましたら、United Allows の名古屋ラシック店では、アメトラを押す予定だそうです。アメトラの再来があるかもしれませんね。

他方、従来まで一般的には見なかったのですけれど、大丸のカットに、クラシコ特有の腰の絞りがあるシルエットを組み合わせたものを良く見るようになってきました。これが上図のジャケット3です。腰を絞って尚かつ大きめのフロント・カットというのは、従来あまり見ないデザインです。腰の絞りが強調され、細身の印象が強くなります。スタイルの良い人には、大変良く似合うと思います。

紳士服は細部の組み合わせで無数の楽しさがあります。たったカット一つなのですけれども、かなり印象が変わってきたり、組み合わせに習慣のようなものがあったりして面白いですね。

ドロップ・ショルダー

A.

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B

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C

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クラシコからアメリカン・トラディショナルへゆっくり移動しているためか、ドロップ・ショルダーも目にするようになりました。

Bは、ストレート・ショルダー、スクエア・ショルダーなどの呼び方がありますが、要するに普通の肩です。

Aはクラシコの最も最後の形で見るようになるコンケーブ(concave)・ショルダーです。凹面になり、細身の方によく似合います。CはAの逆、肩パッドを減らしたり、取ってしまうため、落ちていくような丸みを帯びた形になります。ドロップ・ショルダー、ナチュラル・ショルダーと呼ばれます。

Cはアメトラ、アイビーでは典型的なものです。アイビーは名前の通り Ivy League、アメリカの北東部の名門8大学連盟やそのフット・ボールリーグ戦にちなみます。ただでさえ体格の良いアメリカ人の上、尚かつスポーツをやっていれば、かなり肩にボリュームがあります。きっちり肩を作れば、恐らく目立って仕方なく、着心地が悪かったのだろうと思います。そこで肩パッドを減らしたり、いっそのこと「肩パッドを取ってしまえ!」となったのでしょう。由来の通り、鍛えられた体格の良い方によく似合います。

最近、ぽつぽつと見かけるようになりました。典型的なアメリカン・トラディショナルやアイビーはあまり見掛けませんけれど、その「部分」を採用した服が増えているのが大変面白いですね。

2005.05.28